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プロ野球

【野球人が紡ぐ言葉と思い】「次もまた勝ってくれるぞと思ってもらえることが、投手としての価値」――大野雄大が取り戻したエースとしての矜持

氏原英明

2020.05.01

初のノーヒッターを達成し、完全復活を印象付けた大野。中日では13年の山井大介以来6年ぶりの快挙だった。写真:朝日新聞社

初のノーヒッターを達成し、完全復活を印象付けた大野。中日では13年の山井大介以来6年ぶりの快挙だった。写真:朝日新聞社

「次もまた勝ってくれるぞと思ってもらえることが、投手としての価値やと思う」(中日・大野雄大)

 昨季は最優秀防御率のタイトル獲得に加えて、9月14日の阪神戦では自身初のノーヒットノーランも達成した中日のエース・大野雄大。それまでの2、3年は不振だったが、見事に蘇っての快挙達成となった。

 13年から3年連続2ケタ勝利を挙げていた大野だが、その後徐々に不調に陥り、18年は長い二軍暮らしを経験した。ツーシームを覚えて自ら投球スタイルを崩してしまったことなどが不振の理由として指摘されるが、最大の問題は2段モーションの禁止によってフォームのバランスを失ったことだった。

 2017年、当時西武のエースだった菊池雄星(現マリナーズ)の投球フォームが、ルールで禁止されていた2段モーションだと指摘された。それ以来、特に菊池と同じ左投手はこのルールに敏感になり、パフォーマンスを落とす選手が多かった。大野もその一人で、不振は2段モーションが解禁された18年になっても続いた。

「ここ数年のビデオを見た時に、どこか窮屈に投げているように見えたんですよね。それで原因を探ったところ、身体をしっかりためることができていないと気づいたんです」

 大野は足を突っ張って投げるタイプだ。身体の軸を支える左足でしっかりと蓄えられたパワーが、体重移動とともに右足へと伝えられる。インステップ気味の右足がそのパワーをストップし、さらに上半身へと伝える役割を果たしていた。
 
 だが、不調時の大野は十分に力を蓄えられていない状態で右足をインステップしているだけだった。身体からの力がうまく上半身へ伝わらないので、投じるボールに威力がなかったのだ。そこで大野は、しっかりと軸足に力をためることに意識するようにした。

 それが実ったのか、昨シーズンは5月7日に2年ぶりの完封勝利。だが、その時の大野はまだ以前のような自信に満ちた表情ではなかった。やはり長く結果を出せていなかったことが、「自分がエースだ」という自負を剥ぎ取っていたのかもしれない。事実、本人も昨季序盤は高い意識を持っていなかったことを認めている。

「試合を作ってくれたらいいというのが僕に対する期待だったと思いますし、僕自身もそう思ってマウンドに上がっていました。6、7回まで投げるのがテーマだと思っていた」

 ところが、好投を続けるうちに大野への目線が変わってきた。周囲から「次回もまた勝ってくれる」という期待を感じたその時、彼はエースだった頃の自分に立ち返ることができたのである。「期待されてこその投手だ」と、大野は言う。

 昨季、大野が投げた177.2イニングはリーグ最多。その上で最優秀防御率のタイトルを獲得できた。これは長いイニングを投げることを求められても、結果を残してきた証左だ。自分の"投手としての価値"を再認識した大野は、今季もその堂々たる佇まいで、ドラゴンズ投手陣を引っ張ってくれるに違いない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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