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MLB

ピーダーソンだけでなくダウン症の兄にもサプライズで世界一リングを贈ったドジャースの優しさ<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.07.01

ジョク(左)とチャンプ(右)のピーダーソン兄弟。チャンプは小柄で愛嬌のある笑顔が特徴で、ドジャースのクラブハウスでもアイドルだったのが分かる気がする。(C)Getty Images

ジョク(左)とチャンプ(右)のピーダーソン兄弟。チャンプは小柄で愛嬌のある笑顔が特徴で、ドジャースのクラブハウスでもアイドルだったのが分かる気がする。(C)Getty Images

 現地時間6月24日にドジャー・スタジアムで行なわれたドジャース対カブス戦では、4投手の継投でカブスがノーヒッターを達成したが、この日はもう一つトピックがあった。昨オフにドジャースからカブスへ移籍したジョク・ピーダーソンが、久しぶりにドジャー・スタジアムに戻ったのを機に、ワールドシリーズ優勝リングを授与されたのだ。

 2010年ドラフト11巡目でプロ入りしたピーダーソンは、昨オフにFAとなってカブスと契約するまでは、ずっとドジャースひと筋だった。昨年のポストシーズンでは、16試合で打率.382、2本塁打、8打点と活躍し、32年ぶりの世界一に貢献。それ以前からピーダーソンはポストシーズンでよく打っていて、ファーストネームとポストシーズンが行なわれる10月(オクトーバー)に引っかけ、“ジョクトーバー”という愛称もあった。

 この日、昨年までとは逆に、ビジターチーム側のダグアウトから登場したピーダーソンはかつてのチームメイトに出迎えられ、クレイトン・カーショウから優勝リングを手渡された。
 
 リングを贈られたのはピーダーソンだけではない。ドジャースは彼の兄でダウン症のチャンプにも優勝リングを贈った。

 ジョクがドジャースでプレーしていた当時、チャンプはバットボーイを務めたり、始球式で弟の構えるミットに向かって投げたこともあった。ドジャー・スタジアムのロッカールームに頻繁に出入りし、選手たちとは顔馴染み。ジョクは数年前に『ザ・プレーヤーズ・トリビューン』に寄せた手記の中で、チャンプについて「彼はいつも周囲の人々に幸せをもたらす」「僕よりも人々といい関係を築いている」と記している。

 さらにチャンプはポストシーズンの試合前に、選手たちに向かってスピーチをし、シャンパンファイトにも参加したことがある。彼もまた、ドジャースの一員とみなされたことがよく分かる。優勝リングを受け取るのにふさわしい一人だと言えるだろう。

 ドジャースはチャンプへの優勝リング贈呈を事前には知らせておらず、彼にとってはうれしいサプライズとなった。「ドジャースは素晴らしいチームだし、それを取り巻くすべてが素晴らしい組織だ」。セレモニーの後のインタビューで、チャンプはリングを誇らしげに掲げながら語った。「ジョクの兄になれて、とても幸せだよ」。

 この日はノーヒットに終わったジョクだが、27日の試合ではカーショウからタイムリー二塁打を放って“恩返し”。カブスもドジャースも、現在ポストシーズン進出を目指して善戦を続けている。チャンプもきっと、両者が再び10月の大舞台で相まみえることを望んでいるはずだ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
 
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