長きに渡るメジャーの歴史においても、日本が生んだ天才ヒットメーカーの輝きはいまだ鮮烈だ。それほど2001年から引退するまでの約18年間でイチローが、“野球の本場”で刻んだ功績は凄まじい。

　多士済々の米球界はまさに力と力がぶつかる舞台。打者で言えば、本塁打を量産する打者がやはり評価されがちである。とりわけパワー全盛だった2000年代前半において、イチローは間違いなく稀有な存在だった。

　対峙する投手と比べても明らかに華奢な身体。それでも背番号51は、目を見張るような天才的なバットコントロールなど図抜けた打撃センスで“力”を凌駕した。１年目からMVPと新人王を“ダブル受賞”すると、そこから10年連続200安打を記録。2004年にはジョージ・シスラーの持っていたMLBシーズン最多安打（262）を更新し、文字通り世界一の安打製造機としてその名を球史に刻んだ。

　現在シアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー。昨年11月に球団の殿堂入りを果たした48歳は、25年に資格を得る米野球殿堂入りもまず間違いないと見られている。

　そんなイチローのプレーはいまだ多くの関係者を唸らせる。現地時間８月26日から行なわれるマリナーズとの３連戦を前に、クリーブランド・ガーディアンズの指揮官テリー・フランコーナは、地元紙『Cleveland.com』の取材で、こう論じた。

「イチローは間違いなくこの球界を変えた。あらゆる面で図抜けていた」
  　ボストン・レッドソックスなどの監督を歴任し、２度の世界一を経験している百戦錬磨の指揮官は、もちろん現役時代のイチローを熟知している。その間にはさまざまな対策をこらしたようだが、いずれも「及ばなかった」と語る。

「とくにイチローがやってきてからの最初の数年間は、『どうやったらあいつをアウトにできるか』ということばかりを考えていた。併殺をする場面でなくても、併殺ができる位置で内野手を守らせたりもしたね。彼はいろんな手段で試合にインパクトを与えていた。

　球界を変える力を持っていたと思う。バッティング練習中に彼が『ホームランを打とうと思えば打てる』という話をしていたというのを聞いたことがある。本当に信じられないような才能だった」

　メジャーを知り尽くした名将にここまで言わせるイチロー。その偉才ぶりがいまだ色褪せないあたりが、彼の凄みを如実に物語っている。

構成●THE DIGEST編集部