MLB

コカイン売買で母と知り合った父は窃盗罪を犯して出奔――“二刀流ノーヒッター男”ロレンゼンの壮絶な子供時代<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2023.08.11

移籍2試合目でフィリーズ史上14人目の快挙を成し遂げた元二刀流男ロレンゼン。(C)Getty Images

 8月9日(現地)、マイケル・ロレンゼン(フィリーズ)が達成したノーヒッターは感動的だった。タイガースからフィリーズに移籍して初めてのホームゲームでの大記録。試合終盤、アウトを取るたびに客席で観戦していた母と妻が大きなリアクションで喜び、最後は「あと1球! あと1球!」とコール。大記録を達成した瞬間も、スマートフォンで撮影しながら人目をはばからず涙していた。

 試合後のインタビューで、ロレンゼンが思わず感極まってしまう場面があった。7年前に亡くなった父クリフについて聞かれた時だ。

 クリフは、ロールモデルとは程遠い存在だった。酒浸りで、警察の厄介になることも日常茶飯事。母シェリルとの馴れ初めからしてすごい。二人が知り合ったきっかけは、クリフがシェリフにコカインを売ったことだった。

 ただ、野球の魅力も教えくれたのも父だった。子供の頃、マイケルはリトルリーグの試合に行くため父の車に乗っていると、よく「寝てろ」と言われた。マイケルが寝ている間(本当は寝ているふりをしているだけだったが)に酒を飲むためだ。夜、子供部屋に忍び込んで、マイケルの財布から金を盗んだこともあったという。

 マイケルが12歳の時、重窃盗罪などで逮捕状が出ていることを知ったクリフは、家族を置き去りにして逃走。以降、母はディズニーランドのレストランで働きながら女手一つで4人兄弟を育てた。
 母が仕事で帰宅が遅くなったのをいいことに、マイケルも一時は非行に走った。酒を飲み、マリファナを吸い、スケボー仲間と一緒に屋根の上から通行人に遊び半分にBB弾を撃った(ノーヒッター達成日に履いていたVANSのスパイクはロレンゼンにスケーター魂がまだ宿っていることの表れだ)。

 だが、17歳の時にひょんなことからキリスト教と出会ってから改心。天賦の才能を生かさないのは神への冒涜と考えるようになり、そこからメジャーリーガーへの道を切り開いた。
 
 二刀流選手としてシーンに登場したロレンゼンは、19年にはベーブ・ルース以来98年ぶりとなる「同一試合で勝利投手・本塁打・守備出場」という、大谷翔平(エンジェルス)ですらまだ達成したことのない記録を成し遂げている。クリフともプロ入り後に再会。16年にクリフが亡くなった時は、復帰後最初の試合で父に捧げるメジャー初ホームランを放っている。

 試合後のインタビューで、ロレンゼンは父についてこう言った。

「(もし父が生きていたら)母さんと一緒に飛び跳ねて、同じように騒いでいただろうね」

構成●SLUGGER編集部
NEXT
PAGE
【動画】大谷の盟友でもあるロレンゼンがノーヒッターを達成!家族の大喜びぶりにも注目