これほどの打棒を誰が予想できただろう。ジャイアンツの26歳ルーキー、タイラー・フィッツジェラルドのことだ。7月9日から球団ルーキー初の5試合連続本塁打で自らの名を轟かせると、その後もアーチを量産し、8月5日までの17試合スパンで11本塁打は遊撃手史上4人目の大爆発。その過程で球団OBの最強打者バリー・ボンズ、強打のショートストップとして鳴らしたアレックス・ロドリゲスやトロイ・トゥロウィツキと比較されるなど、特大のインパクトを残している。
【動画】140年以上の球団史で初の快挙!フィッツジェラルド、ルーキー初の5試合連続本塁打
いわゆるトップ・プロスペクトと呼ばれるようなスター候補でも十分驚くべき偉業だが、今回のフィッツジェラルドの大爆発をより際立たせているのは、彼がまったく無名の存在だったことだ。
19年ドラフト4巡目でルイビル大から入団。マイナーでは22~23年に20本塁打&20盗塁を記録し、昨年9月にメジャーデビューを果たすと、宿敵ドジャース戦でクレイトン・カーショウからの一発を含む2本塁打を放った。
それでも、シーズン前に発表された『ベースボール・アメリカ』誌のプロスペクト・ランキングでは全体トップ100からはもちろん、ジャイアンツの球団内でもトップ30圏外(33位)。ハーファン・ザイディ編成総責任者が「クリス・テイラー(ドジャース)になれる」と球界を代表する便利屋の名前を引き合いに出して語っていたが、メジャーリーガーとしての戦力としてはほとんど計算されていないも同然だった。
だが、フィッツジェラルドはあきらめなかった。
練習では「人生で一番多くのスウィング」をこなし、コーチが止めに入るほどバットを振り続けた。内外野をこなす便利屋としてベンチ入りをつかむと、絶対的な正遊撃手不在のチーム状況も手伝って徐々に出場機会が増加。7月以降の猛打により、開幕からショートを務めていたベテランのニック・アーメッドを戦力外に追いやった。ボブ・メルビン監督の「この調子で打ち続ければ殿堂入りするだろう」とのコメントは少々大げさだが、無名のルーキーの大躍進はサンフランシスコのファンを大いに喜ばせている。
一躍時の人になったフィッツジェラルドだが、派手な活躍とは裏腹に浮かれる様子がない。「正直に言うと、そのことについては考えないようにしている」と語っているように、元々が謙虚で物静かな性格だ。球場に着いたら必ずアサイーボウルを食べ、試合前の食事はバナナにピーナッツバター・サンドイッチと決まっている。お決まりの音楽を聴く流れも変わらない。念入りに準備を進める姿に、チームメイトのマイク・ヤストレムスキーは「彼は一瞬たりとも気を抜かない」と証言する。
マイナー時代のファームディレクターが「プレーを見れば見るほど好きになるタイプの選手」だと語っていたように、フィッツジェラルドのひたむきなプレースタイルは観る者の心をがっちりとつかんでいる。俊足も大きな武器で、機動力不足のチームにあってグリーンライトの権利が与えられ、ここまで12盗塁(失敗2)を記録している。
近年、オフのFA戦線でアーロン・ジャッジ(ヤンキース)や大谷翔平、山本由伸(ともにドジャース)獲得に立て続けに失敗しているジャイアンツにとって、フィッツジェラルドは待望の生え抜きスターとして期待したい人材だ。
新人王争いではポール・スキーンズ(パイレーツ)、ジャクソン・メリル(パドレス)に後れを取っているものの、過去にはライアン・ハワード(05年/フィリーズ)など、出場100試合未満でも新人王に選ばれたケースはある。今後の活躍次第では、大逆転の新人王受賞も不可能ではないはずだ。
奇しくも、同じサンフランシスコに本拠を置くNFL・49ersのQBブロック・パーディーも、22年のドラフト全体最下位で指名されながら、昨年チームをスーパーボウル進出に導く活躍を見せた。プロスペクト・ランキングとは無縁だった男フィッツジェラルドのさらなる快進撃にも期待したい。
文●藤原彬
著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。
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いわゆるトップ・プロスペクトと呼ばれるようなスター候補でも十分驚くべき偉業だが、今回のフィッツジェラルドの大爆発をより際立たせているのは、彼がまったく無名の存在だったことだ。
19年ドラフト4巡目でルイビル大から入団。マイナーでは22~23年に20本塁打&20盗塁を記録し、昨年9月にメジャーデビューを果たすと、宿敵ドジャース戦でクレイトン・カーショウからの一発を含む2本塁打を放った。
それでも、シーズン前に発表された『ベースボール・アメリカ』誌のプロスペクト・ランキングでは全体トップ100からはもちろん、ジャイアンツの球団内でもトップ30圏外(33位)。ハーファン・ザイディ編成総責任者が「クリス・テイラー(ドジャース)になれる」と球界を代表する便利屋の名前を引き合いに出して語っていたが、メジャーリーガーとしての戦力としてはほとんど計算されていないも同然だった。
だが、フィッツジェラルドはあきらめなかった。
練習では「人生で一番多くのスウィング」をこなし、コーチが止めに入るほどバットを振り続けた。内外野をこなす便利屋としてベンチ入りをつかむと、絶対的な正遊撃手不在のチーム状況も手伝って徐々に出場機会が増加。7月以降の猛打により、開幕からショートを務めていたベテランのニック・アーメッドを戦力外に追いやった。ボブ・メルビン監督の「この調子で打ち続ければ殿堂入りするだろう」とのコメントは少々大げさだが、無名のルーキーの大躍進はサンフランシスコのファンを大いに喜ばせている。
一躍時の人になったフィッツジェラルドだが、派手な活躍とは裏腹に浮かれる様子がない。「正直に言うと、そのことについては考えないようにしている」と語っているように、元々が謙虚で物静かな性格だ。球場に着いたら必ずアサイーボウルを食べ、試合前の食事はバナナにピーナッツバター・サンドイッチと決まっている。お決まりの音楽を聴く流れも変わらない。念入りに準備を進める姿に、チームメイトのマイク・ヤストレムスキーは「彼は一瞬たりとも気を抜かない」と証言する。
マイナー時代のファームディレクターが「プレーを見れば見るほど好きになるタイプの選手」だと語っていたように、フィッツジェラルドのひたむきなプレースタイルは観る者の心をがっちりとつかんでいる。俊足も大きな武器で、機動力不足のチームにあってグリーンライトの権利が与えられ、ここまで12盗塁(失敗2)を記録している。
近年、オフのFA戦線でアーロン・ジャッジ(ヤンキース)や大谷翔平、山本由伸(ともにドジャース)獲得に立て続けに失敗しているジャイアンツにとって、フィッツジェラルドは待望の生え抜きスターとして期待したい人材だ。
新人王争いではポール・スキーンズ(パイレーツ)、ジャクソン・メリル(パドレス)に後れを取っているものの、過去にはライアン・ハワード(05年/フィリーズ)など、出場100試合未満でも新人王に選ばれたケースはある。今後の活躍次第では、大逆転の新人王受賞も不可能ではないはずだ。
奇しくも、同じサンフランシスコに本拠を置くNFL・49ersのQBブロック・パーディーも、22年のドラフト全体最下位で指名されながら、昨年チームをスーパーボウル進出に導く活躍を見せた。プロスペクト・ランキングとは無縁だった男フィッツジェラルドのさらなる快進撃にも期待したい。
文●藤原彬
著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。
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