一方、ファームで失策24と課題を抱えていた守備面では、川﨑と日々汗を流した。「毎日、基礎練習を一緒にやりました。ハンドリング、足を動かして、またハンドリング。その繰り返しです」と、グラウンドだけでなく、ホテル周辺でも地味な反復を重ねた。

　試合ではショートを田内、セカンドを川﨑が守る形となった。プレーを続けることで「“投げやすさを一番に考えたほうがいい”と言われました。正面に入れなくても逆シングルでもいいし、ジャンピングスローでもいい。ゲッツーも間に合わなくても、とにかく全部投げてみようって。ここは失敗していい場所だから、と」金言を得た。その言葉は、結果を恐れていた若武者の心を解き放った。

　川﨑は「教えていないですよ。ベイスターズさんで教わっていることが素晴らしいのです」と首を振る。田内ももちろんその点は感じながらも「コーチとは違って、選手は“プレーそのもの”がすぐに見られるじゃないですか。中島さんがどうカウントを作るのか、ムネさんがどんな守備位置や声かけをするのか。動きを見ながら学べる環境は、本当に貴重でした」
  ☆守備MVPという“結果”

　4チームで行なわれたリーグ戦で、ファルコンズは見事に優勝。

「ゲームセットの瞬間は、とにかく嬉しかったです。短期間のチームでしたが、本当にいいチームでした。また試合ができないと思うと、少し寂しかったですね」と複雑な気持ちが胸を去来した。

　プレーオフでは川﨑が打率.417の大活躍でMVPを獲得した。「本当に最年長？と思うくらいの動きで、すごいの一言でした。野球を心から楽しんでいるのが伝わってきて、その空気がチームに広がるのも分かりました。僕もそんな選手になりたいと思いました」とムネリンイズムの伝承者としても名乗りを上げた。

　そして田内自身も、レギュラーシーズンで最も守備に優れた選手に贈られる『エイドリアン・ベルトレ最優秀守備賞』を受賞した。「まずは川崎さんへの感謝です。毎日チェスドリルをやって、判断力が本当に良くなった。自分の中の引き出しが一気に増えました」。

　チェスのように判断力や戦術的思考を鍛える練習で得た守備力向上。再来年からセ・リーグでもDHが採用されることもあり「守備が上手くなれば試合に出られる可能性も増えますからね。チェスドリルはこれからもずっと続けていきます」とムネリンイズムを体に染み込ませていくと、目を光らせた。

☆来季を見据える若武者

　来季に向けた自主トレは、主砲・牧秀悟とともに行なう。牧も「高卒1年目ですけど、すごく考えて野球をやっていますよね。自分で考えて行動できる。高卒1年目らしくない選手です」と評価する。

　来季に向け「リーグ戦の半分は出たい。71試合が目標です」と言い切る姿は、確かに“らしくない”。

　ポジションはショートが第一希望。だが「相川(亮二新監督)さんが求めるところで勝負したい。セカンドなら牧さん、サードなら宮﨑（敏郎）さんに勝つつもりでいます」と、強気に先輩たちに挑戦状を突きつけた。

　異国の地で得た経験と、レジェンドから受け取った“考え方”。伸び盛りの若武者はそれらすべてを武器にして、2026年、横浜スタジアムで暴れ回る。

　　
取材・文●萩原孝弘

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