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侍ジャパン

【玉木正之のベースボール今昔物語:第22回】WBC優勝でベネズエラがアメリカに復讐? 第1回で日本の優勝を後押しした“怨念”<SLUGGER>

玉木正之

2026.04.08

 NPBはまったく不意を突かれたカタチでこの報道に接し、春季キャンプ中の開催であることを理由に、最初は不参加の意志を表明した。だがMLB側は、イベントを盛り上げるためには日本の参加が必須条件と考え、もしも日本の不参加で収益に多大な損失が出た場合は、それを日本の責任と見なして法的対応を取る、などとまったく理不尽な恫喝を加え、日本を参加させることに成功したのだった。

 とはいえ、3月初旬から中旬というスケジュールに反発する選手も多く、メジャーリーグの選手が積極的に参加することもなかった。そんな中で、参加を表明したイチロー選手(当時マリナーズ)は、東京ドームでの試合前練習中に「この試合、マジメにやるの? 本気でやるの?」と、同僚の選手にささやいていたことを、近くで取材した小生も耳にした。

 そんなドタバタのうちに始まったWBCは、東京での1次ラウンドで日本が韓国に2対3で敗退。2位通過で2次ラウンドに進んだものの、ボブ・デビッドソン審判の誰がどう見てもおかしなジャッジでアメリカに敗れ、韓国にも負けて万事休すと思ったところが、アメリカがメキシコに敗れる番狂わせで準決勝に進んだのだった。

 準決勝で韓国を3度目の正直で破った日本チームは、決勝でキューバを10対6で撃破。正直に言って日本のファンも、侍ジャパンの選手たちももちろん王貞治監督を初めとするスタッフたちも、アレヨアレヨという間にワケのわからないまま、第1回WBCを初優勝という最高の結果で幕を閉じたのだった。
 
 2次ラウンドで韓国とアメリカに連敗したあとの飲み会では、選手たちは誰もが相当荒れて呑みまくったそうだが、その最中にアメリカがメキシコに敗れるというニュースが入り、準決勝進出が決まった日本チームの選手たち。「本当にみんな、死んだ状態から生き返った思いで、やる気満々で試合に臨めたのが良かったよ」と王監督が大会後に語ってくれたとおり、どんな理由があったにせよ、この大会の最大の勝因は「一度死んだこと」だったのかもしれない。

 それにしても、韓国にも日本にも敗れていたメキシコが、最後の試合でアメリカを2対1で撃破してくれたことが日本の準決勝進出を助けてくれたわけで、この結果については王監督も「メキシコとアメリカの歴史的背景というか、怨念というか、そういうアメリカには負けられない、絶対に勝ってやるという意志も働いたのかもしれないね」と、日本に帰ってから語ってくれたのを今も覚えている。

 確かにメキシコはアメリカとの戦争に何度も敗れて多くの領土を奪われた過去がある。そんな怨念が働いたとするなら、今年のベネズエラもトランプ大統領とアメリカの爆撃に対して……と言えなくもない。そんな政治的事情も国際試合の面白いところかもしれない……。

文●玉木正之

【著者プロフィール】
たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。

 

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