ニール自身が快進撃を見せられた理由も、貪欲に学ぼうとする姿勢にある。
「日本でプレーしたことのある友人たちから、日本の文化や野球を経験するのがどんな財産になるのか聞いていた。素晴らしいファンがいると聞き、日本でプレーすることが夢だった」
来日直後、まだ寒い日の多い宮崎県南郷町での春季キャンプで走り、人生で初めて左足のハムストリングを痛めた。それでも、ニールは前を向いた。
「練習できない時にはウエイトルームでトレーニングして、身体をより強くすることができた。その時にコーチたちと話をした。彼らは日本でのプレー経験がある。その知恵を借りて日本のバッターの特徴を聞き、毎日、自分がより良くなるために努力した」
調整が遅れ、日米のマウンドの違いに適応するには時間が足りず、4月は4先発して防御率4.95という成績で二軍に降格した。
しかし投球メカニクスや、アメリカの中4日から日本の中6日で回るための調整方法を見直し、さらに許銘傑投手コーチの勧めでカットボールを習得した。すると6月20日に再昇格後に破竹の11連勝を飾ったのだ。
「多くの日本人ピッチャーは体の前側を沈みながら投げるよね。でも俺の場合、いいシンカーとチェンジアップを投げるためには、身体の後ろ側を高く保っておく必要がある。それができれば、マウンドの高さや柔らかさは問題にならない。自分のメカニクスがいい限り、どんなマウンドでも投げることができる」
ニールはフォーシームを投げず、主な持ち球は140km台のシンカーと130km台のチェンジアップだ。見た目には特段すごい球を投げているわけではない。連勝を伸ばすたび、「なぜ勝てるのか」という声が囁かれた。
「俺のシンカーとチェンジアップは手から離れた後の回転が同じだから、バッターは見分けるのが難しいと思う」
いわゆるピッチトンネルを構成し、打者にゴロの山を築かせていく。日本で覚えたカットボールも投球の幅を広げた。
メジャーとマイナーを行き来したアメリカ時代にはフライボール革命が流行し、「バレル(*1)への対策を考えないといけないから、攻め方が変わってきた」と振り返る。
(*1)バレル……打率.500/長打率1.500以上になる打球速度・角度で打たれた打球。バレルになるには打球速度が最低158km必要で、その際は角度26~30°の範囲がバレルゾーンになる。
しかし日本の打者はコンタクトを重視する者が多く、低めに沈むシンカーやチェンジアップが武器になった。加えて、リズムよく、低めにコントロール良く投げていく投球スタイルは野手に好評だった。9月18日、ニールが8回無失点で勝利投手になったオリックス戦後、二塁手の外崎修汰はこう話している。
「サイン通りにコースきっちり投げてくれるので、大体こっちに来そうだなというのがあって、すごく守りやすいです。ポジショニングというか、最初に守っている時点で守備範囲を広げられる感じがありますね」
巧みな投球術で野手の信頼を勝ち取ることに加え、ヒーローインタビューの決まり文句となった「アザース」など簡単な日本語を覚え、普段から周囲と積極的にコミュニケーションをとっていく。そうして心技体を整え、30歳で妻とともに来日した男は花開いた。
日本で活躍する外国人投手はよく「助っ人」と表現されるが、ニールに関しては適切でない。直接的、間接的に日本人選手たちの能力を引き出し、文字通り、勝利の輪の中心にいたからだ。
新外国人選手がシーズン前半の4、5月に活躍できなくても、適応時間を与えれば、後に活躍できるかもしれない――ニールの快進撃を通じて西武球団がそう学んでいれば、未来への大きな財産をもらったことにもなる。
アメリカで活躍できずに来日し、西武にとって勝利の使者になったニールは、少なくとも“15勝”分の価値をもたらせた。チームの今後次第で、その値打ちはもっと大きく膨れ上がる。
文●中島大輔(スポーツライター)
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。