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プロ野球

巨人の戦力外ふたりがベストナインで得票…アウォードの記者投票は「情報開示」が必要では?

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2020.12.17

ダルビッシュに投票しなかった記者は炎上したものの、その姿勢はジャーナリズムを貫いていた。(C)Getty Images

ダルビッシュに投票しなかった記者は炎上したものの、その姿勢はジャーナリズムを貫いていた。(C)Getty Images

【セ・リーグ外野手得票内訳】
・佐野恵太(DeNA):260
・丸佳浩(巨人):186
・鈴木誠也(広島):161
・梶谷隆幸(DeNA):128
・大島洋平(中日):92
・青木宣親(ヤクルト):67
・近本光司(阪神):39
・大山悠輔(阪神):3
・モタ(巨人):1
・松原聖弥(巨人):1
・オースティン(DeNA):1

 先に述べた通り、セ・リーグの外野手部門は熾烈な争いだった。青木と近本には改めてもっと多くの票が集まってもおかしくないように思うが、そこは仕方がない。問題は「モタの1票」だ。

 昨年に巨人と育成契約を結んだモタは、今年2月のキャンプで原監督からキャンプMVPに選ばれると、同月末に支配下登録を勝ち取った。この際、号泣しながら喜んだシーンも印象的だったが、シーズンが始まるや豪快なスウィングはまったくボールに当たらず、すぐに降格処分。9試合(11打席)で2安打1本塁打という成績に終わり、吉川大幾と同じくオフに自由契約となっている。

 パ・リーグの外野手部門でも、今季不振だった上林誠知(ソフトバンク)や福田秀平(ロッテ)、外野出場わずか2試合の明石健志(ソフトバンク)といった到底「ベストナイン」に該当すると思えない選手が投票を受けていた。今季の球界を代表する選手を表彰するための賞であるにもかかわらず、オフに戦力外となったり、打率1割台の不振、守備機会がほとんどない選手に票を投じるのは、一体どういった根拠を持ってのことなのだろうか。
 
 今回のベストナイン、そして17日に発表されるMVP、新人王、ゴールデン・グラブ賞は、全国の新聞、通信、放送各社に所属し、プロ野球取材経験5年以上の記者による投票で決定される。野球を伝え、また近い距離で見てきた“プロの目”で決めるのは決して悪いことではない。しかし一方で、近い距離にいるからこそ“忖度”が生まれる温床とも言われる。例えば、ある球団の担当者は今後の取材を意識して、その所属の選手に投票するという形だ。

 もちろん、“公正”に投票している人もいるだろう。しかし、我々には分からない。なぜなら、日本のアウォード投票は、どの記者が誰に投票したのか明かされないからだ。一方でメジャーリーグでは、アウォード発表と同時に“すべて”の投票結果が公表される。一目でどの所属のだれだれが、どの選手に投票したのかがリストとなって掲載されるのである。

 例えば今年、ダルビッシュ有(シカゴ・カブス)がサイ・ヤング賞を獲るのではないかと話題を呼んだ。ライバルと目されたトレバー・バウアーとは、さまざまな指標で伯仲しており、日本だけでなくアメリカでも一番の混戦と言われていたほどである。しかし、結果はバウアーに完敗。その中で、ある記者がダルビッシュに対して5位票(サイ・ヤング賞投票では記者が1位から5位まで順位をつけて投票する)すら投じず“炎上”する一幕もあった。

 では日本はどうか。炎上することなどあり得ない。なぜなら、誰が投票したのか知る術がないからだ。先のダルビッシュの一件、炎上した記者は「なぜ自分がダルビッシュに対して投票しなかったのか」という記事を寄稿した。もちろん、これで納得するかどうかは別として、自らの信念とその理由を明示するという責任を果たしているわけである。

 こうした議論が生まれる土壌こそが、アウォード投票の価値を高めていると毎年のように感じる。議論があることで、記者もファンも選手も「考える場」を持つことができ、どの選手がふさわしいのかをより深く思案するようになるはずである。

 だから提案したい。NPBも公開された記名投票という形を採ってはどうだろうか。これまで述べた通り、投票者は今まで以上に責任を持って投票しなければならず、明らかにふさわしいと思えない選手への票がなくなるはずである。むしろ、公開しないメリットを探す方が難しいだろう。SNSで多くのファンが意見を述べられる現代にあって、“開かれたアウォード投票”は時代の要請だと思うのだが……。

文●新井裕貴(SLUGGER/THE DIGEST編集部)
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