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MLB

「健康第一」は単なるタテマエ? MLB機構vs選手会の仁義なき「日程議論」の裏側【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】

豊浦彰太郞

2021.02.26

 選手会がMLB機構の提案を拒んだ最大の理由は、端的に言ってメリットが少ないからだ。

 現行の労使協定では、戦争や自然災害などの国家非常事態でない限り、MLB機構と選手会は本来の日程を消化することが定められている。昨年は緊急事態下ということで年俸の削減を(うっかり)受け入れてしまったため、後々交渉がもつれる原因にもなった。選手会にすれば、無観客になろうが知ったこっちゃないというのが本音だ。「もともと認められている権利なのに、機構側からあたかも特別待遇を与えられるかのような提案には乗れない」というわけだ。

 健康第一はある意味ではタテマエで、実際はカネこそ最優先というのはMLB機構とて同じだ。ワクチン接種が少しでも進んでからのほうが各種の感染対策費用は削減できるし、開幕が遅くなればなるほど、無観客や入場者数制限下での開催を回避できる。

 そもそも、健康管理を優先しての提案なら、拡大プレーオフや両リーグのDH制採用はセットにする必要はない。この2つは、本質的には選手会も積極的に反対すべきものではない。プレーオフ出場という追加役務の発生を嫌う声がないわけではないが、その分、それに見合ったボーナスが支払われば良いはずだ。ナ・リーグでのDH制採用も、新たな雇用を生むことは間違いない。
 
 今年のオフに現行の労使協定は失効する。コロナ禍の影響もあり、FA市場が冷え込む中での新たな交渉はかなりの難航が予想される。それを踏まえ、MLB機構は最大のテーマとなりそうなFA補償問題を有利に進めるためにも、プレーオフ枠拡大と両リーグでのDH制採用を先に既成事実化しておきたい、逆に選手会はそうなることで交渉カードがなくなってしまう事態を避けたい。そんな両者の思惑が見え隠れする。

 キャンプ地の意向も記しておこう。MLBのスプリング・トレーニングは開幕に向けた準備のためだけのものではない。アリゾナやフロリダのキャンプ地にとっては、極めて重要な観光資源なのだ。州外から多くのファンが家族ぐるみでやって来て、宿泊や飲食その他で巨額のカネを落としていく。これが無観客なり一部の観客しか入れない、ということになれば両州とも大打撃を受ける。その意味でも、キャンプ開始を遅らせてほしいという思惑はあったはずだ。

 今回のシーズン開幕をめぐる両者の綱引きは、コロナ禍によって顕在化した労使闘争であり、次の労使協定の「前哨戦」だったのだ。

文●豊浦彰太郎

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