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高校野球

「西村には負けへん」智弁学園の“右のエース”、小畠一心が見せた4回目の夏の円熟<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.25

 その後も西村の後を追う存在に甘んじていたが、小坂監督は「小畠が後ろにいるのは大きい。他の投手が安心していられる」と、ただの2番手投手にとどまらない評価をしている。そして最終学年となった今年、小畠の評価が一気に上がったのがセンバツ2回戦の広島新庄戦だった。先発を務めた小畠は、9回を6安打2失点に抑える好投を見せ、智弁学園のベスト8進出の立役者となった。

 小坂監督は感慨深く語る。

「この試合あたりからですよね。小畠に安定感が出てきた。安心して見られるようになった」

 今日の試合で小畠を安心して先発に送り出せたのも、広島新庄戦での完投勝利によって左の西村と対をなす、“右のエース”として信頼がおけるようになったからだ。背番号は10でも、エースと並び立つ絶対的な存在といっていい。 

 すでに4度目となる甲子園の舞台で、小畠は見違えるほどに大人びてきた。同じ完投勝利でも、無四球だったことに成長の後が見える。
 
 小畠はいう。この言葉もまた彼らしい。

「カウントを悪くすると、リズムが悪くなるので、先に追い込もうと思いました。それも同じボールばかりではなく、いろんな球種を使って。1、2回戦で西村がいいピッチングをしていたので、自分も負けへんと言う気持ちでマウンドに上がりました。1年生の頃から投げさせてもらっているので、その経験を生かしてチームを引っ張っていきたい」

 強気なエース西村を後ろで支える小畠のこの日のピッチングは、チームを大きく前進させたに違いない。

 明日の準決勝の相手は14年夏に岡本和真(現巨人)を擁しながらも敗れた明徳義塾。2回戦の対明桜戦では、最速157キロの風間球打すらも攻略した強力打線が持ち味だが、果たして智弁学園が誇るダブルエースとどちらが上回るか。

「チーム全員が力を合わせてやっていけば、これからも勝っていけると思います」

 あくまで小畠は自信を持って言い切る。背番号10の右のエースは、初の夏制覇を視界に捉えている。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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