――指導者の側の改革だけでなく、選手の側のアプローチが取り上げられているのも印象的です。タイトルの『甲子園は通過点です』は、将来のメジャー挑戦を公言する天理の達孝太投手のマインドを端的に表したものでもあります。「甲子園がすべて」という高校球児が多かった昔に比べ、今の球児たちの価値観は変わってきていると思いますか?
「全員が全員変わっているわけではないですが、一部の選手の価値観は確かに変わってきていると思います。
これは知り合いのスポーツライターに聞いた話なんですが、ある選手に『目標とする選手は誰ですか?』と聞いたところ、『タイラー・グラスノー(レイズ)です』という答えが返ってきたそうなんです。その記者はグラスノーのことを知らなかったので、僕に『グラスノーって誰ですか?』って聞いてきたんです(笑)
同じように、達選手も目標の選手はマックス・シャーザー(ドジャース)ですよね。昔はプロ野球選手ばかりだったのが、メジャーリーガーの名前を挙げるようになったのは大きな変化ですよね。
それに達選手は、比喩表現が全部メジャーリーガーなんですよ(笑)。たとえば『カウントを取るフォークを投げる時は、クレイトン・カーショウ(ドジャース)のカーブのイメージで投げています』なんて言ったりする(笑)。発想がもう高校球児じゃないんですよね(笑)。
僕は野茂英雄から始まって、それに続いてアメリカに挑戦していく選手たちを見てきた世代ですが、今の子たちはもう、日本人選手がメジャーリーグにいることが当たり前なんですよね。メジャーを見る機会も多いし、その気になればいくらでもメジャーリーガーのプレーを見ることができる。だから、最初にまずメジャーへ行くことを夢見る子もいるわけです。そういう子たちが『甲子園を目指そう』って言われても、『いや、僕はメジャーリーガーになりたいんで』ってなるわけですよ。
達選手はメジャーリーガーになることが一番の目標なので、そこに行くために何をするべきかを考えてプレーしていると思います。夢を叶えるために高校で甲子園に行くことも必要だから、甲子園は甲子園で本気で目指していた。その舞台で良いバッターと対戦することが自分の成長につながると思っているから、甲子園を目指すわけです。
でも、最終目標はメジャーなので、無理をして今後に影響するような怪我をするのは避けたいと思っているし、サイン盗みのような行き過ぎた勝利至上主義にこだわってまで甲子園に行くのも違うと思っている。あくまで自分がこれまで取り組んできたトレーニングの成果を発揮するための場所として、甲子園を目指していた。それが“通過点”という言葉の意味ですね。
そもそも、今まで一つしか目標がなかったことが異常なんですよ。甲子園を目指すために野球をやるのは、むしろゴールが手前すぎると思います。17、18歳で人生のピークを迎えるのは、一般的に考えればあり得ない話ですが、これまでの高校野球はそれが普通だった。そういった価値観が取り払われてきているというのは喜ばしいことですよね」
(後編に続く)
【PROFILE】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
「全員が全員変わっているわけではないですが、一部の選手の価値観は確かに変わってきていると思います。
これは知り合いのスポーツライターに聞いた話なんですが、ある選手に『目標とする選手は誰ですか?』と聞いたところ、『タイラー・グラスノー(レイズ)です』という答えが返ってきたそうなんです。その記者はグラスノーのことを知らなかったので、僕に『グラスノーって誰ですか?』って聞いてきたんです(笑)
同じように、達選手も目標の選手はマックス・シャーザー(ドジャース)ですよね。昔はプロ野球選手ばかりだったのが、メジャーリーガーの名前を挙げるようになったのは大きな変化ですよね。
それに達選手は、比喩表現が全部メジャーリーガーなんですよ(笑)。たとえば『カウントを取るフォークを投げる時は、クレイトン・カーショウ(ドジャース)のカーブのイメージで投げています』なんて言ったりする(笑)。発想がもう高校球児じゃないんですよね(笑)。
僕は野茂英雄から始まって、それに続いてアメリカに挑戦していく選手たちを見てきた世代ですが、今の子たちはもう、日本人選手がメジャーリーグにいることが当たり前なんですよね。メジャーを見る機会も多いし、その気になればいくらでもメジャーリーガーのプレーを見ることができる。だから、最初にまずメジャーへ行くことを夢見る子もいるわけです。そういう子たちが『甲子園を目指そう』って言われても、『いや、僕はメジャーリーガーになりたいんで』ってなるわけですよ。
達選手はメジャーリーガーになることが一番の目標なので、そこに行くために何をするべきかを考えてプレーしていると思います。夢を叶えるために高校で甲子園に行くことも必要だから、甲子園は甲子園で本気で目指していた。その舞台で良いバッターと対戦することが自分の成長につながると思っているから、甲子園を目指すわけです。
でも、最終目標はメジャーなので、無理をして今後に影響するような怪我をするのは避けたいと思っているし、サイン盗みのような行き過ぎた勝利至上主義にこだわってまで甲子園に行くのも違うと思っている。あくまで自分がこれまで取り組んできたトレーニングの成果を発揮するための場所として、甲子園を目指していた。それが“通過点”という言葉の意味ですね。
そもそも、今まで一つしか目標がなかったことが異常なんですよ。甲子園を目指すために野球をやるのは、むしろゴールが手前すぎると思います。17、18歳で人生のピークを迎えるのは、一般的に考えればあり得ない話ですが、これまでの高校野球はそれが普通だった。そういった価値観が取り払われてきているというのは喜ばしいことですよね」
(後編に続く)
【PROFILE】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。