▼400勝投手“怒りの完全試合”
史上最多の通算400勝を達成した金田正一も、完全試合達成者の一人だ。快挙達成は国鉄時代の57年8月21日の中日戦、中日球場でのダブルヘッダー第2試合。相手先発の“フォークの神様”杉下茂は金田にとって、55年に投げ合った際に目の前でノーヒッターを達成された因縁の相手だった。
球界を代表する両エースの投げ合いとあって、試合は息詰まる投手戦となった。1人のランナーも許さない金田はもちろん、杉下も8回まで無失点。9回に3安打を浴びて1点を失ったものの、追加点を許さないまま試合は9回裏へ。快挙をかけたマウンドに上がった金田だが、先頭打者のハーフスウィングをストライクと判定されたことに中日の天知俊一監督が抗議したことで、試合は一時中断。興奮した50人ほどの中日ファンがグラウンドへなだれ込んで乱闘騒ぎとなり、警察も出動する事態にまで発展してしまった。
実に43分の中断の間、金田はマウンドに静かにしゃがみこんで事態を見守っていたが、故郷・名古屋のファンの暴挙に、その内心は「そんなにワシの記録にケチをつけたいのか」と怒りに燃えていた。そして試合再開後、残る2人の打者に対し、すべてストレートを投じた金田は、2者連続3球三振でゲームセット。現在まで左腕投手史上唯一の快挙だが、試合後のコメントは「どうせなら、あんなことにならずに達成したかった」とどこか寂しげだった。
▼史上最高の名捕手なのに……達成なしで2度も食らったノムさん
佐々木の完全試合では、捕手を務めたのが高卒ルーキーの松川虎生だったことも話題となった。松川はプロ出場わずか7試合目で快記録を引き出したわけだが、逆に完全試合と縁がない名選手も少なくない。歴代2位の捕手通算2921試合出場を誇るノムさんこと野村克也は、完全試合どころかノーヒットノーランにすら縁がなかった。
しかし一方でノムさんは、打者としては2度もパーフェクト達成を献上している。1回目は66年5月12日の西鉄(現西武)戦で、達成したのは田中勉。南海打線は、田中のシュートとスライダーにきりきり舞いさせられ、史上9人目の快挙を献上してしまった。前年は三冠王を達成して南海のリーグ優勝に貢献したノムさんも三振、ライトフライ、ショートゴロに倒れ、「打てる球はいくつかあったのになあ……」とボヤいた。
2度目は南海の選手兼任監督に就任した70年の10月6日。今度の相手はアンダースローの技巧派・佐々木宏一郎(近鉄)だった。この時は佐々木のシンカーに手も足も出ず無念の快挙を許し、自身も2度の内野ゴロとサードフライに倒れた。この時は素直に相手を褒めたノムさんが、内心は穏やかでなかったに違いない。
文●筒居一孝(SLUGGER編集部)