▼史上最強打者を抑え込んだノムさんの執念
意外な記録がある。
誰が見ても文句なしの“史上最強打者”王貞治は、レギュラーシーズン通算で.301の高打率を残していながら、21回出場したオールスターの通算打率は.213の低さ。この成績の低さは、王のライバルだったパ・リーグの雄、野村克也の執念によるところが極めて大きかった。
ともに史上屈指のスラッガーである野村と王の因縁は、通算本塁打記録の争いに始まる。73年まで頂点にいたのは前者だが、この年になって後者が抜き去り、そのまま2度と王座を譲ることがなかった。
「ワンちゃんにはかなわない」と、誰よりも王の才能を認めていた野村だが、やはり忸怩たる思いがあったのだろう。それがそのままリードに現れた。
野村がマスクをかぶっている間の王は、73年から80年にかけて30打席連続無安打も記録したほど、完全に抑え込まれている。この間、野村以外の捕手では5本塁打を放っているから、その違いはあまりにも大きい。2人とも80年限りで引退しており、結局、王は「捕手・野村」の前で2度と安打を放てなかった。
この記録を発見した日本プロ野球の“記録の神様”、元パ・リーグ記録部の宇佐見徹也氏は、後年この“対戦成績”を野村本人に見せた。すると野村は自分でも予想外だったようで、「打たせないつもりでやっていたが、こんなにはっきり記録に出るものなのか」と驚いていたという。本人ですら半ば無自覚だった野村の執念に、王は祟られたというしかない。
▼“お祭り男”新庄が魅せた美技
最後に紹介するのは、現日本ハム監督のビッグボスこと新庄剛志のオールスターだ。現役時代の新庄は、球宴でも輝く“お祭り男”だった。
新庄のオールスター初出場は、阪神時代の1994年。この年は代走で球宴初盗塁を決めたくらい。2度目の出場となった97年には、前半戦の不振もあって応援ボイコットの憂き目にもあったが、セ・パ分立50周年記念として行なわれた99年のオールスターでは、第3戦で4打数2安打1本塁打、セの全2得点をたたき出して初のMVPに選出された。
だが、新庄が本領を発揮するのは、2004年にメジャーから日本ハムへ復帰してからだ。同年、パの外野手ではトップの72万票を集めて1番・センターでフル出場。とくに第2戦のパフォーマンスは鮮烈で、初回の第1打席に「予告ホームラン」からの初球セーフティバントを決め、3回裏には今も名高い単独ホームスチールを成功させた。
4番・小笠原道大(日本ハム)の打席で、福原忍と矢野輝弘の阪神バッテリーが返球する隙をついての好プレーは、球宴史上初の単独本盗となり、2度目のMVPに選出されている。試合後に新庄は「(ホームスチールなどは)パ・リーグじゃなかったらやってない」と発言。日本ハム入団会見の折に語った「これからはメジャーでもない。セ・リーグでもない。パ・リーグです!」という、リーグを盛り上げる決意を有言実行した。
また、この年はオリックスと近鉄の合併問題に端を発する再編問題に球界が揺れていた時でもあった。「こういう選手がたくさん出てメディアに取り上げられれば、ファンも球場に行きたい気持ちになる」という新庄の意図が、騒動を乗り越えて現在も球界が隆盛する礎になったと言えるだろう。
文●筒居一孝(SLUGGER編集部)
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意外な記録がある。
誰が見ても文句なしの“史上最強打者”王貞治は、レギュラーシーズン通算で.301の高打率を残していながら、21回出場したオールスターの通算打率は.213の低さ。この成績の低さは、王のライバルだったパ・リーグの雄、野村克也の執念によるところが極めて大きかった。
ともに史上屈指のスラッガーである野村と王の因縁は、通算本塁打記録の争いに始まる。73年まで頂点にいたのは前者だが、この年になって後者が抜き去り、そのまま2度と王座を譲ることがなかった。
「ワンちゃんにはかなわない」と、誰よりも王の才能を認めていた野村だが、やはり忸怩たる思いがあったのだろう。それがそのままリードに現れた。
野村がマスクをかぶっている間の王は、73年から80年にかけて30打席連続無安打も記録したほど、完全に抑え込まれている。この間、野村以外の捕手では5本塁打を放っているから、その違いはあまりにも大きい。2人とも80年限りで引退しており、結局、王は「捕手・野村」の前で2度と安打を放てなかった。
この記録を発見した日本プロ野球の“記録の神様”、元パ・リーグ記録部の宇佐見徹也氏は、後年この“対戦成績”を野村本人に見せた。すると野村は自分でも予想外だったようで、「打たせないつもりでやっていたが、こんなにはっきり記録に出るものなのか」と驚いていたという。本人ですら半ば無自覚だった野村の執念に、王は祟られたというしかない。
▼“お祭り男”新庄が魅せた美技
最後に紹介するのは、現日本ハム監督のビッグボスこと新庄剛志のオールスターだ。現役時代の新庄は、球宴でも輝く“お祭り男”だった。
新庄のオールスター初出場は、阪神時代の1994年。この年は代走で球宴初盗塁を決めたくらい。2度目の出場となった97年には、前半戦の不振もあって応援ボイコットの憂き目にもあったが、セ・パ分立50周年記念として行なわれた99年のオールスターでは、第3戦で4打数2安打1本塁打、セの全2得点をたたき出して初のMVPに選出された。
だが、新庄が本領を発揮するのは、2004年にメジャーから日本ハムへ復帰してからだ。同年、パの外野手ではトップの72万票を集めて1番・センターでフル出場。とくに第2戦のパフォーマンスは鮮烈で、初回の第1打席に「予告ホームラン」からの初球セーフティバントを決め、3回裏には今も名高い単独ホームスチールを成功させた。
4番・小笠原道大(日本ハム)の打席で、福原忍と矢野輝弘の阪神バッテリーが返球する隙をついての好プレーは、球宴史上初の単独本盗となり、2度目のMVPに選出されている。試合後に新庄は「(ホームスチールなどは)パ・リーグじゃなかったらやってない」と発言。日本ハム入団会見の折に語った「これからはメジャーでもない。セ・リーグでもない。パ・リーグです!」という、リーグを盛り上げる決意を有言実行した。
また、この年はオリックスと近鉄の合併問題に端を発する再編問題に球界が揺れていた時でもあった。「こういう選手がたくさん出てメディアに取り上げられれば、ファンも球場に行きたい気持ちになる」という新庄の意図が、騒動を乗り越えて現在も球界が隆盛する礎になったと言えるだろう。
文●筒居一孝(SLUGGER編集部)
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