本誌11月号でも書いたように、野球は個人スキルを競うスポーツではない。甲乙つけ難い2人のMVP候補がいて、一人のチームは優勝し、もう一方のチームが低迷したとなれば、前者が多く支持を集めるのはある意味で当然だろう。
マグワイアとソーサの本塁打記録更新が大きな話題を集めた98年もそうだった。その年、MVPを受賞したのは、シーズン記録(当時)の70本塁打を放ったマグワイアではなく、66本ながらチームをプレーオフへ導いたソーサの方だった。
結局、ストーリー性、注目度、チームの成功など個人成績以外のチェックボックスもすべてクリアしたジャッジが圧勝した、ということだろう。
結果的に大谷がジャッジの後塵を拝したことで、日本では「人種差別」を匂わせて投票の正当性に疑問を投げかけたり、あるいは大谷を支持する極端な「ファンの声」だけを集めてジャッジを蔑むような記事が出るかもしれない(出ないことを祈っているが)。
だが、声を大にして強調しておきたいのは、大谷は決して「敗者」ではないということだ。
2人の極めて優れた選手がたまたま同じリーグに所属し、たまたま同じシーズンに歴史的な成績を残した。もし大谷が今季ナショナル・リーグでプレーしていたら、あるいはジャッジの大活躍が23年にずれていたら……どちらのケースでも、大谷は間違いなく満票でMVPを受賞していたはずだ。
だが、記者たちが1位票の欄に書き入れられるのは一人だけ。それが、ジャッジ28、大谷2という結果になった。2位票の内訳は大谷28、ジャッジ2。仮に大谷に2位票すら投じない記者がいたのなら、その真意を問い質したくもなるが、そんなことはなかった。 似たケースは過去にもある。1941年、テッド・ウィリアムズ(レッドソックス)は今日に至るまでMLB史上最後となる4割打者となった(.406)。加えて、37本塁打もリーグ1位だったが、MVPに輝いたのは、これまた今日に至るまでMLB記録として燦然と輝く56試合連続安打を達成したジョー・ディマジオ(ヤンキース)だった。
2012年、45年ぶりの三冠王を達成したミゲル・カブレラ(タイガース)と、ルーキーで30本塁打&49盗塁を記録し、WARでもダントツの数字を残したマイク・トラウト(エンジェルス)のMVP争いも大きな議論を呼んだ(この時はカブレラが圧勝した)。
投票結果にかかわらず、今年のジャッジと大谷の争いも、ディマジオ対ウィリアムズ、カブレラ対トラウトと同じように、MLB史上に残る“究極のMVPレース”として語り継がれていくだろう。
いや、もっと正確に言えば、我々ファンが語り継いでいかなければならない。レコードブックには、2022年のア・リーグMVPは「アーロン・ジャッジ」としか記されない。今季の大谷がジャッジに負けず劣らず素晴らしかったこと、二刀流選手として、長いMLBの歴史上でも唯一無二のパフォーマンスを見せたことを記憶にとどめ、次世代に伝えるのは我々の責任だ。
大谷だけではなく、ジャッジの偉業も称えよう。2人は、それぞれ違った形でベースボールというスポーツの魅力を改めて我々に教えてくれたのだから。
「現地メディアの声」と称しながら、実態はチェリー・ピッキング(数多くの事例の中から自らの論証に有利な情報だけを選ぶこと)に過ぎない記事を垂れ流していたずらに対立と憎悪を煽る一部メディアの声に流されてはいけない。MLBの魅力は、ベースボールの魅力は。そんな低次元のものではないはずだ。
文●久保田市郎(SLUGGER編集部)
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マグワイアとソーサの本塁打記録更新が大きな話題を集めた98年もそうだった。その年、MVPを受賞したのは、シーズン記録(当時)の70本塁打を放ったマグワイアではなく、66本ながらチームをプレーオフへ導いたソーサの方だった。
結局、ストーリー性、注目度、チームの成功など個人成績以外のチェックボックスもすべてクリアしたジャッジが圧勝した、ということだろう。
結果的に大谷がジャッジの後塵を拝したことで、日本では「人種差別」を匂わせて投票の正当性に疑問を投げかけたり、あるいは大谷を支持する極端な「ファンの声」だけを集めてジャッジを蔑むような記事が出るかもしれない(出ないことを祈っているが)。
だが、声を大にして強調しておきたいのは、大谷は決して「敗者」ではないということだ。
2人の極めて優れた選手がたまたま同じリーグに所属し、たまたま同じシーズンに歴史的な成績を残した。もし大谷が今季ナショナル・リーグでプレーしていたら、あるいはジャッジの大活躍が23年にずれていたら……どちらのケースでも、大谷は間違いなく満票でMVPを受賞していたはずだ。
だが、記者たちが1位票の欄に書き入れられるのは一人だけ。それが、ジャッジ28、大谷2という結果になった。2位票の内訳は大谷28、ジャッジ2。仮に大谷に2位票すら投じない記者がいたのなら、その真意を問い質したくもなるが、そんなことはなかった。 似たケースは過去にもある。1941年、テッド・ウィリアムズ(レッドソックス)は今日に至るまでMLB史上最後となる4割打者となった(.406)。加えて、37本塁打もリーグ1位だったが、MVPに輝いたのは、これまた今日に至るまでMLB記録として燦然と輝く56試合連続安打を達成したジョー・ディマジオ(ヤンキース)だった。
2012年、45年ぶりの三冠王を達成したミゲル・カブレラ(タイガース)と、ルーキーで30本塁打&49盗塁を記録し、WARでもダントツの数字を残したマイク・トラウト(エンジェルス)のMVP争いも大きな議論を呼んだ(この時はカブレラが圧勝した)。
投票結果にかかわらず、今年のジャッジと大谷の争いも、ディマジオ対ウィリアムズ、カブレラ対トラウトと同じように、MLB史上に残る“究極のMVPレース”として語り継がれていくだろう。
いや、もっと正確に言えば、我々ファンが語り継いでいかなければならない。レコードブックには、2022年のア・リーグMVPは「アーロン・ジャッジ」としか記されない。今季の大谷がジャッジに負けず劣らず素晴らしかったこと、二刀流選手として、長いMLBの歴史上でも唯一無二のパフォーマンスを見せたことを記憶にとどめ、次世代に伝えるのは我々の責任だ。
大谷だけではなく、ジャッジの偉業も称えよう。2人は、それぞれ違った形でベースボールというスポーツの魅力を改めて我々に教えてくれたのだから。
「現地メディアの声」と称しながら、実態はチェリー・ピッキング(数多くの事例の中から自らの論証に有利な情報だけを選ぶこと)に過ぎない記事を垂れ流していたずらに対立と憎悪を煽る一部メディアの声に流されてはいけない。MLBの魅力は、ベースボールの魅力は。そんな低次元のものではないはずだ。
文●久保田市郎(SLUGGER編集部)
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