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MLB

「ここに野球ができるヤツはいないのか?」“史上最弱軍団”メッツを盛り上げたユーモアあふれる老監督<SLUGGER>

出野哲也

2023.06.07

 とはいえ投手だけの責任ではない。守備陣も210個ものエラーを犯し、非自責点が147失点もあったのだ。とりわけ酷かったのが、一塁手ながら97試合で17失策したマーブ・スローンベリー。他の選手がエラーをすると、スローンベリーは「俺の専売特許を奪わないでくれ」と文句をつけたという。閉幕後にスローンベリーがメディアから「グッドガイ賞」に選ばれた際には、ステンゲルはこのように発言した。「その賞は郵送した方がいい。手渡しだとあいつは必ず落とす」

 こんな珍事も発生した。センターのリッチー・アッシュバーンがフライを追いかけ「俺が捕る」と叫んだにもかかわらず、ショートのエリオ・チャコンと激突した。ベネズエラ出身のチャコンは英語がわからなかったからだ。そこでアッシュバーンは、次に同じような打球が飛んだ時はスペイン語で叫んだ。そして、スペイン語を知らないレフトのフランク・トーマスと激突した。
「長いことこの世界にいるが、まだ新しい負け方を見つけるとは思わなかった」。ステンゲルが嘆息したコメディ映画顔負けのチームは、翌63年も111敗、64年も109敗。68年までの7年間は毎年9位以下だった。しかし69年、若手が急成長してリーグ優勝を遂げたのみならず、一気にワールドシリーズまで制覇。初年度の惨状も、メッツファンにとっては笑い話に変わった。

 一方のアスレティックスは、2025年からラスベガスへ移転することが内定している。今年のチームを懐かしい思い出として振り返る機会は、オークランドのファンには残されていない。せめてステンゲルのように、どんな状況でも笑いに変えてくれる監督でもいればよかったのだが……。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
 

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