「今永と山本はスプリッターのコマンドが素晴らしい。他の多くのMLBの投手はスプリッターを決め球として使っている。だが、今永は決め球としてだけではなく、早いカウントでも投げてくる。山本も、ずば抜けたコマンドでどんな時でも自在にスプリッターを投げてくる」
今永が山本を明らかに上回っているのが速球だ。
球速は平凡だがスピンがかかっているため、打者が当てにいこうとしている時でさえ空振りを多く奪える。速球のスピンとコマンドが今永にとってゲームチェンジャーとなっているのだ。
「あのスピン量はエリート級だ」とあるスカウトは言う。「球速が89~90マイルしか出ていない時もあるにもかかわらずね。だが、打者を惑わせているのは、スプリッターをゾーンに投げ込んでいることだ。言わば『逆算』のピッチングで、これに打者が戸惑っている。だから、速球が球速以上の効果を発揮しているのさ」
「今永も山本も、早いカウントでスプリッターをストライクゾーンに投げ込むが、打者は手を出そうとしない。そうやってストライクを先行させた後、今永は高めにファストボールを投げ込むか、さらにスプリッターを続ける。打者はどちらを狙うべきか分からくなってしまうんだ。早いカウントからスプリッターでストライクを取られると、打者は『これはヤバいぞ』と考えているはずさ」
このスカウトはさらに、今永のコマンド能力とピッチングスタイルはかなり特異なので、打者たちが彼に適応するためにアプローチを変えるのも非効率だと指摘する。
「今永に対してだけアプローチを変えて、早いカウントでゾーンに入ってくるスプリッターを狙うなんてことはないだろう」と彼は言う。別のスカウトは、今後打者たちは低めに集まるスプリッターの代わりに、高めの4シームを狙うようになるのではと予測している。 あるスカウトによれば、今永の4シームとスプリッターは効果的なピッチトンネルを形成しており、打者がそれぞれを見分けるのは難しい。
今永のピッチングが驚きを読んでいる理由は、好投ぶりと4年5300万ドルという契約総額にギャップがあるからだ。その額に落ち着いたのは、今永がMLBの厳しいスケジュールに適応できるか疑念があったのも一因だった。
「彼が大柄ではないということも、過小評価された原因だと思う」と一人のスカウトは指摘する。
別のスカウトの意見はこうだ。「彼の能力に疑問を向けるチームはそう多くなかったと思う。だが、耐久性に対する懸念は間違いなくあった」
「端的に言って、今永も山本もコマンドはエリートクラスだ。スカウト評価で『80』とまでは行かなくとも、『70+』はいくだろう(注:MLBのスカウトは選手の能力を「20~80」のスケールで評価する)」とそのスカウトは言う。
「コマンドを生かすための球速も十分ある。怪我さえなければ、今後も活躍を続けられるだろう。だが、健康を維持することが難しい。どちらも日本時代より負担がかかっているようにも見えるしね」
そのスカウトはとりわけ山本に懸念を抱いている。というのも、「いつもよりもギアを上げているように見える」からだ。それでも、過酷なシーズンを怪我なく乗り越えることさえできれば、2人とも優れたコマンド能力でサイ・ヤング賞候補に挙げられる可能性はあるという。
MLBの各球団が躍起になって追い求める中、ある球団幹部は今永と山本のコマンド能力の魅力を次のようにまとめた。「ビッグリーグの打者たちは剛速球も打ち崩せる。だが、エリート級のコマンドには太刀打ちできない」
※『SLUGGER』2024年7月号掲載記事を再構成
文●ジム・アレン
【著者プロフィール】
1960年生まれ。カリフォルニア大サンタクルーズ校で日本史を専攻。卒業後に英語教師として来日し、93年から取材活動を開始。現在は共同通信の記者としても活躍中。ベイエリアで育ち、子供の頃は熱心なサンフランシスコ・ジャイアンツのファンだった。
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今永が山本を明らかに上回っているのが速球だ。
球速は平凡だがスピンがかかっているため、打者が当てにいこうとしている時でさえ空振りを多く奪える。速球のスピンとコマンドが今永にとってゲームチェンジャーとなっているのだ。
「あのスピン量はエリート級だ」とあるスカウトは言う。「球速が89~90マイルしか出ていない時もあるにもかかわらずね。だが、打者を惑わせているのは、スプリッターをゾーンに投げ込んでいることだ。言わば『逆算』のピッチングで、これに打者が戸惑っている。だから、速球が球速以上の効果を発揮しているのさ」
「今永も山本も、早いカウントでスプリッターをストライクゾーンに投げ込むが、打者は手を出そうとしない。そうやってストライクを先行させた後、今永は高めにファストボールを投げ込むか、さらにスプリッターを続ける。打者はどちらを狙うべきか分からくなってしまうんだ。早いカウントからスプリッターでストライクを取られると、打者は『これはヤバいぞ』と考えているはずさ」
このスカウトはさらに、今永のコマンド能力とピッチングスタイルはかなり特異なので、打者たちが彼に適応するためにアプローチを変えるのも非効率だと指摘する。
「今永に対してだけアプローチを変えて、早いカウントでゾーンに入ってくるスプリッターを狙うなんてことはないだろう」と彼は言う。別のスカウトは、今後打者たちは低めに集まるスプリッターの代わりに、高めの4シームを狙うようになるのではと予測している。 あるスカウトによれば、今永の4シームとスプリッターは効果的なピッチトンネルを形成しており、打者がそれぞれを見分けるのは難しい。
今永のピッチングが驚きを読んでいる理由は、好投ぶりと4年5300万ドルという契約総額にギャップがあるからだ。その額に落ち着いたのは、今永がMLBの厳しいスケジュールに適応できるか疑念があったのも一因だった。
「彼が大柄ではないということも、過小評価された原因だと思う」と一人のスカウトは指摘する。
別のスカウトの意見はこうだ。「彼の能力に疑問を向けるチームはそう多くなかったと思う。だが、耐久性に対する懸念は間違いなくあった」
「端的に言って、今永も山本もコマンドはエリートクラスだ。スカウト評価で『80』とまでは行かなくとも、『70+』はいくだろう(注:MLBのスカウトは選手の能力を「20~80」のスケールで評価する)」とそのスカウトは言う。
「コマンドを生かすための球速も十分ある。怪我さえなければ、今後も活躍を続けられるだろう。だが、健康を維持することが難しい。どちらも日本時代より負担がかかっているようにも見えるしね」
そのスカウトはとりわけ山本に懸念を抱いている。というのも、「いつもよりもギアを上げているように見える」からだ。それでも、過酷なシーズンを怪我なく乗り越えることさえできれば、2人とも優れたコマンド能力でサイ・ヤング賞候補に挙げられる可能性はあるという。
MLBの各球団が躍起になって追い求める中、ある球団幹部は今永と山本のコマンド能力の魅力を次のようにまとめた。「ビッグリーグの打者たちは剛速球も打ち崩せる。だが、エリート級のコマンドには太刀打ちできない」
※『SLUGGER』2024年7月号掲載記事を再構成
文●ジム・アレン
【著者プロフィール】
1960年生まれ。カリフォルニア大サンタクルーズ校で日本史を専攻。卒業後に英語教師として来日し、93年から取材活動を開始。現在は共同通信の記者としても活躍中。ベイエリアで育ち、子供の頃は熱心なサンフランシスコ・ジャイアンツのファンだった。
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