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高校野球

【甲子園】低反発バット導入で懸念される過剰なスモールベースボール信仰と投手力の低下...社会人野球を手本に全体のレベルアップを<SLUGGER>

西尾典文

2024.08.24

 また、長打のない打者が増えると、次に起こるのは投手のレベルの低下である。力のない打者であればバットの芯を外せば打ち取れる確率が高いということで、こちらも必要以上に技巧に走ってしまい、基本となるボールのスピード、勢いを軽視してしまうことも考えられる。投手と野手のレベルアップはどちらか一方だけが上がっていくというものではなく、互い密接に関係しており、そういう意味でも強い打球を放つことができる打者が減ることは、マイナスが大きいと言えるだろう。

 参考になるのは社会人野球ではないだろうか。かつて金属バットを使用していた社会人野球も、2002年シーズンから木製バットとなり、その当時はバットを折る打者が続出したのをよく覚えている。そのことで当初は技巧派投手の活躍が目立ち、送りバントを多用するチームも増えたが、現在ではそのような傾向は薄れている。
 それには社会人球界全体でレベルアップを目指す取り組みがあったことも大きい。その一つがデータの活用である。都市対抗野球のテレビ中継でも、近年は投手の回転数、打者の打球速度、角度などが表示され、代表チームの選手の数字なども公開されている。高校野球、大学野球ではチーム単位で行っていても、全体ではまだこのような取り組みは見られない。低反発バット導入を機会に、学生野球でも全体でレベルアップへの仕組みを検討すべきだろう。

 高校野球の裾野は広く、トップレベルのことばかり考えるのは不公平だという意見もありそうだが、野球界全体の発展を考えれば、競技力向上は避けては通れない問題である。新基準のバット導入を機に、改めてそのことに対する意識を多くの関係者が持つようになることを切に願いたい。


文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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