より優れた打者であったために、犠打の「世界記録」を作るチャンスがなく、票数が川相より少なくなっているのは明らかに矛盾だ。もしもそれほどまでバントの価値を高く評価するのであれば、川相の倍以上の安打を放った上で、犠打も289本(史上11位)決めていた石井の票数がここまで少ない説明がつかない。
毎年のように見過ごされている名選手としては、タフィ・ローズも挙げられる。通算464本塁打は史上14位、外国人選手では1位。01年には当時のタイ記録となる年間55本を放ったが、一時は122票まで増えていた票数は、ここ数年は70票前後。このままでは当選することなく、被投票資格を喪失しそうだ。
ローズと同レベルの成績だった日本人打者でも選ばれないのだから、ことさら外国人差別というわけではないだろう。しかしながら日本で614試合しかプレーせず、通算成績ではるかに劣るランディ・バースはエキスパート表彰で殿堂入りした。確かにバースの2年連続三冠王はインパクトが大きかったが、それなら同じく三冠王経験者で、バース以上の通算成績だったブーマー・ウェルズ(今回のエキスパート部門投票では得票率33.1%にとどまった)や、史上1位の生涯打率.320を記録したレロン・リーも入っていないとおかしい。
このように、日本の殿堂投票は「ブレブレ」であり、納得のいくものとは言い難い。これは投票者間でのコンセンサス、すなわち殿堂入りの基準が不明確であるのが理由の一つと思われる。名球会のように2000安打や200勝といったマイルストーンが設けられておらず、投票者の裁量に任されているのは長所でもある。だからこそ、今回エキスパート表彰で選ばれた掛布雅之のように、名球会入りできなかった名選手にも門戸が開かれているわけだ。
アメリカの殿堂にも明確な入選基準はない。とはいえ、3000安打・500本塁打・300勝を超えれば、薬物使用など大きな汚点がない限りは当選確実。イチローも3000安打を達成した16年の時点でそのようにみなされていた。近年では勝利貢献度を表す総合指標WARの数値も、判断材料として重視されている。そのため「どうしてこの選手の票数がこんなに多い(あるいは少ない)のか」と議論を呼ぶような例は稀である。それくらい徹底的に考察を巡らせた末に票を投じているからこそ、正式発表前に堂々と自らの名前を出し、投票内容を公開できるのだ。
果たして、日本の殿堂の選考委員はそこまで深く考えているだろうか? 結果を見る限り、残念ながらそうは思えない。批判を封じるためにも「野球報道に関して15年以上の経験をもつ者」は、その矜持を持って投票してもらいたいものだ。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
【動画】MLBでは「ほぼ満票」に値したイチローの偉大なる野球人生
毎年のように見過ごされている名選手としては、タフィ・ローズも挙げられる。通算464本塁打は史上14位、外国人選手では1位。01年には当時のタイ記録となる年間55本を放ったが、一時は122票まで増えていた票数は、ここ数年は70票前後。このままでは当選することなく、被投票資格を喪失しそうだ。
ローズと同レベルの成績だった日本人打者でも選ばれないのだから、ことさら外国人差別というわけではないだろう。しかしながら日本で614試合しかプレーせず、通算成績ではるかに劣るランディ・バースはエキスパート表彰で殿堂入りした。確かにバースの2年連続三冠王はインパクトが大きかったが、それなら同じく三冠王経験者で、バース以上の通算成績だったブーマー・ウェルズ(今回のエキスパート部門投票では得票率33.1%にとどまった)や、史上1位の生涯打率.320を記録したレロン・リーも入っていないとおかしい。
このように、日本の殿堂投票は「ブレブレ」であり、納得のいくものとは言い難い。これは投票者間でのコンセンサス、すなわち殿堂入りの基準が不明確であるのが理由の一つと思われる。名球会のように2000安打や200勝といったマイルストーンが設けられておらず、投票者の裁量に任されているのは長所でもある。だからこそ、今回エキスパート表彰で選ばれた掛布雅之のように、名球会入りできなかった名選手にも門戸が開かれているわけだ。
アメリカの殿堂にも明確な入選基準はない。とはいえ、3000安打・500本塁打・300勝を超えれば、薬物使用など大きな汚点がない限りは当選確実。イチローも3000安打を達成した16年の時点でそのようにみなされていた。近年では勝利貢献度を表す総合指標WARの数値も、判断材料として重視されている。そのため「どうしてこの選手の票数がこんなに多い(あるいは少ない)のか」と議論を呼ぶような例は稀である。それくらい徹底的に考察を巡らせた末に票を投じているからこそ、正式発表前に堂々と自らの名前を出し、投票内容を公開できるのだ。
果たして、日本の殿堂の選考委員はそこまで深く考えているだろうか? 結果を見る限り、残念ながらそうは思えない。批判を封じるためにも「野球報道に関して15年以上の経験をもつ者」は、その矜持を持って投票してもらいたいものだ。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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