バルセロナの今夏の補強戦略において、一つの焦点となっているのがマーカス・ラッシュフォードの去就だ。マンチェスター・ユナイテッドから期限付き移籍中のイングランド代表FWに対し、クラブは3000万ユーロ(約55億円)の買い取りオプションを行使すべきか、シーズン終盤のパフォーマンスを見極める構えだという。
ラッシュフォードの去就が不透明な状況下で、彼に代わる左ウイングの有力な補強候補として急浮上しているのが、オサスナのビクトル・ムニョスである。昨夏、移籍金500万ユーロ(約9億2000万円)でレアル・マドリーから加入すると、爆発的なスピードと豊富な運動量を武器に攻撃の中心へと君臨。その飛躍は目覚ましく、3月のスペイン代表デビュー戦ではセルビアを相手に出場わずか9分でゴールを奪うなど、強烈なインパクトを残した(3-0で勝利)。途中出場から独力で局面を打破できるドリブラー枠としてワールドカップ(W杯)の最終メンバー入りを射程圏内に捉えた22歳に対し、バルサ首脳陣はラフィーニャの代役としての構想を描いている。
しかし、スペイン紙『Mundo Deportivo』は、そのオペレーションは極めて複雑になると指摘する。そこには、買い戻しオプションを保持する宿敵マドリーの影があるからだ。マドリー側の買い戻し設定額は、今後3年間で26年が800万ユーロ(約15億円)、27年が900万ユーロ(約16億6000万円)、28年が1000万ユーロ(約18億5000万円)と、年を追うごとに上昇はするものの、急激に高まった現在の価値に比べて極めて安価に設定されている。
一方で、オサスナ側は契約解除金として設定されている4000万ユーロ(約74億円)の満額支払いを要求。さらに、保有権の50%をマドリーが握っているため、移籍金の半分が宿敵の懐に転がり込むという構図も、バルサが二の足を踏む要因となっている。
皮肉なのは、ムニョスがかつてラ・マシアの門を叩いた「バルサ育ち」である点だ。バルサで3シーズンを過ごした後、クラブは彼の放出を決定。その後、国内屈指の育成クラブとして名高いエストレージャ・ダムでの4年間を経て、2021年にマドリーのカンテラに加入するという異例の経歴を辿った。バルサのカンテラ事情に精通する『Sport』紙のジャウマ・マルセ氏は、当時の彼をこう振り返る。
「バルサ時代の彼は才能の片鱗こそ見せていたが、将来を嘱望されるエリートの一人として、完全に輝きを放つまでには至らなかった」
実際、今回のA代表選出まで世代別代表とは全く無縁であったという事実が、ラミネ・ヤマルやパウ・クバルシらが駆け上がっていったようなエリート街道の外側に、当時の彼がいたことを物語っている。
この「見落とし」とも言える放出劇に対し、マルセ氏は「我々は指導者であって、未来予知者ではない」というある現場監督の言葉を引き合いに出し、こう論じている。
「バルサは過ちを犯したのか。今となってはイエスと言わざるを得ない。だが、当時の彼がこれほど凄まじい成長を遂げると予想するのは不可能に近かった。選手の覚醒が辿るパラメーターは千差万別だ。インファンティル(12歳~14歳)やカデテ(14歳~16歳)といった10代半ばに差し掛かる年齢では、現在のパフォーマンスではなく将来のポテンシャルで判断すべきだと、この事実は教えてくれる。17歳でスターにならなければ価値がないかのように錯覚してしまうほど、今のフットボール界はあまりに流れが速すぎる。17歳の時に陽の当たらない場所にいた選手が、22歳でW杯を照準に捉えているのだ。ムニョスのケースは、我々に深い熟考を迫っている」
遅咲きとはいえ、まだ22歳。今冬にはサンダーランドから2500万ユーロ(約46億円)のオファーが届いた事実が示す通り、その評価は今や欧州中に轟いている。W杯、そして夏の移籍市場。大きな転換点を目前に控え、かつて手放した「原石」は、いま最も旬なスペイン人選手の一人として、バルサを照らしている。
文●下村正幸
【動画】ラ・リーガも注目!ビクトル・ムニョスのドリブルシュートを分析
ラッシュフォードの去就が不透明な状況下で、彼に代わる左ウイングの有力な補強候補として急浮上しているのが、オサスナのビクトル・ムニョスである。昨夏、移籍金500万ユーロ(約9億2000万円)でレアル・マドリーから加入すると、爆発的なスピードと豊富な運動量を武器に攻撃の中心へと君臨。その飛躍は目覚ましく、3月のスペイン代表デビュー戦ではセルビアを相手に出場わずか9分でゴールを奪うなど、強烈なインパクトを残した(3-0で勝利)。途中出場から独力で局面を打破できるドリブラー枠としてワールドカップ(W杯)の最終メンバー入りを射程圏内に捉えた22歳に対し、バルサ首脳陣はラフィーニャの代役としての構想を描いている。
しかし、スペイン紙『Mundo Deportivo』は、そのオペレーションは極めて複雑になると指摘する。そこには、買い戻しオプションを保持する宿敵マドリーの影があるからだ。マドリー側の買い戻し設定額は、今後3年間で26年が800万ユーロ(約15億円)、27年が900万ユーロ(約16億6000万円)、28年が1000万ユーロ(約18億5000万円)と、年を追うごとに上昇はするものの、急激に高まった現在の価値に比べて極めて安価に設定されている。
一方で、オサスナ側は契約解除金として設定されている4000万ユーロ(約74億円)の満額支払いを要求。さらに、保有権の50%をマドリーが握っているため、移籍金の半分が宿敵の懐に転がり込むという構図も、バルサが二の足を踏む要因となっている。
皮肉なのは、ムニョスがかつてラ・マシアの門を叩いた「バルサ育ち」である点だ。バルサで3シーズンを過ごした後、クラブは彼の放出を決定。その後、国内屈指の育成クラブとして名高いエストレージャ・ダムでの4年間を経て、2021年にマドリーのカンテラに加入するという異例の経歴を辿った。バルサのカンテラ事情に精通する『Sport』紙のジャウマ・マルセ氏は、当時の彼をこう振り返る。
「バルサ時代の彼は才能の片鱗こそ見せていたが、将来を嘱望されるエリートの一人として、完全に輝きを放つまでには至らなかった」
実際、今回のA代表選出まで世代別代表とは全く無縁であったという事実が、ラミネ・ヤマルやパウ・クバルシらが駆け上がっていったようなエリート街道の外側に、当時の彼がいたことを物語っている。
この「見落とし」とも言える放出劇に対し、マルセ氏は「我々は指導者であって、未来予知者ではない」というある現場監督の言葉を引き合いに出し、こう論じている。
「バルサは過ちを犯したのか。今となってはイエスと言わざるを得ない。だが、当時の彼がこれほど凄まじい成長を遂げると予想するのは不可能に近かった。選手の覚醒が辿るパラメーターは千差万別だ。インファンティル(12歳~14歳)やカデテ(14歳~16歳)といった10代半ばに差し掛かる年齢では、現在のパフォーマンスではなく将来のポテンシャルで判断すべきだと、この事実は教えてくれる。17歳でスターにならなければ価値がないかのように錯覚してしまうほど、今のフットボール界はあまりに流れが速すぎる。17歳の時に陽の当たらない場所にいた選手が、22歳でW杯を照準に捉えているのだ。ムニョスのケースは、我々に深い熟考を迫っている」
遅咲きとはいえ、まだ22歳。今冬にはサンダーランドから2500万ユーロ(約46億円)のオファーが届いた事実が示す通り、その評価は今や欧州中に轟いている。W杯、そして夏の移籍市場。大きな転換点を目前に控え、かつて手放した「原石」は、いま最も旬なスペイン人選手の一人として、バルサを照らしている。
文●下村正幸
【動画】ラ・リーガも注目!ビクトル・ムニョスのドリブルシュートを分析




