ホセ・ルイス・メンディリバルと言えば、日本人ファンにとっては乾貴士が所属したエイバルの監督として馴染みが深いはずだ。当時は人口3万人弱にも満たない山に囲まれた盆地の街をホームタウンにするエイバルを5年連続で1部残留に導き、その手腕を知らしめた。
ただ昨年3月にセビージャの監督に就任するまで率いたクラブに目を向けると、2005年に開幕から2か月余りで解任されたアスレティック・ビルバオを除けば、エイバル(2004-2005、2015-2021)を含めて、バジャドリー(2006-2010)、オサスナ(2011-2013)、レバンテ(2013-15)、アラベス(2021-2022)と残留を争うクラブばかり。とりわけ就任後、わずか12試合で解任されたアラベスで受けた扱いは、残留請負人として長く実績を積んだベテラン指揮官へのリスペクトの欠片もないものだった。
それは昨シーズン終盤に就任したセビージャでも同様だ。2023年3月にシーズン3人目の監督として招聘された際、期待されていたのは迷走するチームを立て直す火消し役だった。しかしメンディリバルの就任がまさしく起爆剤となったチームは、ラ・リーガで巻き返しを見せたばかりか、ヨーロッパリーグ(EL)で快進撃を披露。マンチェスター・ユナイテッド、ユベントス、ローマと強豪を次々に撃破し、クラブ史上7度目のEL制覇を果たしたのだった。
当初メンディリバルの契約はそのシーズン限りだった。当然、ファンの間では続投を推す声が広まったが、フロントは新監督を探していた。結果的に、ファン人気に押されて1年間契約を延長したものの、序盤から黒星が先行すると、メンディリバルは9節終了後にあっさり解任を言い渡された。
しかしセビージャでの成功は、メンディバルにとって一時の栄光にはならなかった。今年2月に「火消し役でシーズン3人目」とセビージャのときと全く同じ状況でギリシャのオリンピアコスの監督に就任すると、今度はチームをヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)制覇に導いたのだ。残留請負人から欧州カップ戦優勝請負人への見事なまでの転身である。
オリンピアコスで指導を受けたビセンテ・イボーラはメンディリバルのことを「単純明快な人間だ」と語る。セビージャではそのストレートな物言いは、チーム状況が暗転し始めると批判の的になったが、そもそも置かれた環境によって振る舞いを変える器用なタイプではない。
サッカーに目を向けてもそれは同じで、ハイライン&ハイプレス戦術を基に、サイドに展開して、クロスに合わせ、そのこぼれ球を拾って、2次3次攻撃に繋げる単純明快さがしきりに強調される。その一方で、後半開始と同時にスソとエリク・ラメラを投入し、試合の流れを変えた昨シーズンのEL決勝のローマ戦のように、采配が冴えを見せても、戦略家としての面をクローズアップされることは少ない。
しかしメンディバルは、「私はアンチモダンの監督で、タブレットを持ち歩かない」という発言が示すように、そうしたレッテル貼りをむしろ励みにするかのような頑固一徹さで、コツコツとキャリアアップを遂げてきた。すでに63歳。今後、果たして残留請負人、火消し役以上のミッション遂行を期待して招聘するクラブが現われるかは不透明だが、だからこそたたき上げの鏡とも言えるこの指揮官が手に入れた2つの欧州タイトルは、燦然と輝いている。
文●下村正幸
【動画】ECLで優勝したオリンピアコスのトロフィー授与の瞬間
ただ昨年3月にセビージャの監督に就任するまで率いたクラブに目を向けると、2005年に開幕から2か月余りで解任されたアスレティック・ビルバオを除けば、エイバル(2004-2005、2015-2021)を含めて、バジャドリー(2006-2010)、オサスナ(2011-2013)、レバンテ(2013-15)、アラベス(2021-2022)と残留を争うクラブばかり。とりわけ就任後、わずか12試合で解任されたアラベスで受けた扱いは、残留請負人として長く実績を積んだベテラン指揮官へのリスペクトの欠片もないものだった。
それは昨シーズン終盤に就任したセビージャでも同様だ。2023年3月にシーズン3人目の監督として招聘された際、期待されていたのは迷走するチームを立て直す火消し役だった。しかしメンディリバルの就任がまさしく起爆剤となったチームは、ラ・リーガで巻き返しを見せたばかりか、ヨーロッパリーグ(EL)で快進撃を披露。マンチェスター・ユナイテッド、ユベントス、ローマと強豪を次々に撃破し、クラブ史上7度目のEL制覇を果たしたのだった。
当初メンディリバルの契約はそのシーズン限りだった。当然、ファンの間では続投を推す声が広まったが、フロントは新監督を探していた。結果的に、ファン人気に押されて1年間契約を延長したものの、序盤から黒星が先行すると、メンディリバルは9節終了後にあっさり解任を言い渡された。
しかしセビージャでの成功は、メンディバルにとって一時の栄光にはならなかった。今年2月に「火消し役でシーズン3人目」とセビージャのときと全く同じ状況でギリシャのオリンピアコスの監督に就任すると、今度はチームをヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)制覇に導いたのだ。残留請負人から欧州カップ戦優勝請負人への見事なまでの転身である。
オリンピアコスで指導を受けたビセンテ・イボーラはメンディリバルのことを「単純明快な人間だ」と語る。セビージャではそのストレートな物言いは、チーム状況が暗転し始めると批判の的になったが、そもそも置かれた環境によって振る舞いを変える器用なタイプではない。
サッカーに目を向けてもそれは同じで、ハイライン&ハイプレス戦術を基に、サイドに展開して、クロスに合わせ、そのこぼれ球を拾って、2次3次攻撃に繋げる単純明快さがしきりに強調される。その一方で、後半開始と同時にスソとエリク・ラメラを投入し、試合の流れを変えた昨シーズンのEL決勝のローマ戦のように、采配が冴えを見せても、戦略家としての面をクローズアップされることは少ない。
しかしメンディバルは、「私はアンチモダンの監督で、タブレットを持ち歩かない」という発言が示すように、そうしたレッテル貼りをむしろ励みにするかのような頑固一徹さで、コツコツとキャリアアップを遂げてきた。すでに63歳。今後、果たして残留請負人、火消し役以上のミッション遂行を期待して招聘するクラブが現われるかは不透明だが、だからこそたたき上げの鏡とも言えるこの指揮官が手に入れた2つの欧州タイトルは、燦然と輝いている。
文●下村正幸
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