サッカー界では、あるタイミングから突如として不動の主力にのし上がるプレーヤーがいる。レギュラー選手の怪我、監督の交代など外的要因も影響してくるが、すべての前提となるのは、やはり確固とした実力でありパーソナリティーだ。レアル・マドリーのようなタレントがひしめく超メガクラブであれば、なおさらである。2023-2024シーズンのアントニオ・リュディガーのケースがまさにそうだった。
もともとスピードとパワーを兼備するフィジカルモンスターとして鳴らしていた。対人戦にめっぽう強く、空中戦を制し、ロングボールをことごとく跳ね返し、カバーリングの範囲が異常に広い。その一方で、右SBをこなすなど器用さもあり、CBとしてもドリブルで持ち上がって左右に展開するプレーなどはお手の物だった。
しかし、そんなリュディガーもマドリー加入1年目(2022-2023シーズン)は苦労した。即戦力としての活躍を期待された彼にカルロ・アンチェロッティ監督が最初に用意したのは、不慣れな左SBのポジションだった。W杯による中断期間を経て、徐々に本職のCBとしての出場機会が増えたものの、強敵相手のビッグゲームでは、あくまでもエデル・ミリトンとダビド・アラバに次ぐ3番手だった。
同シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1レグ、マンチェスター・シティ戦でアーリング・ハーランドを完璧に封じて一躍脚光を浴びながら、ミリトンが累積警告による出場停止から戻ったアウェーの第2レグでベンチスタートだった事実が、その立ち位置を物語っていた。
しかしその一方で、ポテンシャルの高さは随所に垣間見せていた。試合をこなすにつれて、周りとの連携が磨かれ、2年目はその圧倒的な個の力をチームに還元するようになる。そしてミリトンの怪我に乗じて、レギュラーポジションを任されたことですべてが好転。さらにアラバも大怪我を負うなど事態が変化する中でDFリーダーに君臨するに至り、そのまま一度もアクセルを緩めることなくシーズンを乗り切った。
15回目のCL制覇を果たしたマドリーの守備の中心には、常にリュディガーがいた。少々チーム全体が間延びしても、後方にスピードとパワーでカバーしてしまうこの“火消し役”がいたからこそ、前がかりになって攻めることができた。また、CL準々決勝のシティとのPK戦で、第5キッカーとして冷静に決め、熱戦に決着をつけたのも、幼少時代にランボーと呼ばれ、元マドリーCBのペペを師事するこのドイツ代表CBだった。
EURO2024での大車輪の働きも、まさにその延長線上にある。準々決勝のスペイン戦では、延長後半の119分にミケル・メリーノに裏を取られ決勝点を奪われたが、これはボールウォッチャーになってしまう悪癖が顔を覗かせたというよりも、ただでさえフル稼働が続いていた中、デンマーク戦(ベスト16)の出場が危ぶまれるほどだった太ももの負傷の影響もあり、最後に力尽きたという印象のほうが強い。守備者として圧倒的な存在感を放つだけでなく、ビルドアップや後方からのロングパスによるチャンスメイクで、普段マドリーで見せている以上に攻撃にも積極的に関与した。
リュディガーこそが今季の欧州ナンバーワンCBだ――。スペインを中心に、ヨーロッパではそのような声が多方面で飛び交っている。
文●下村正幸
【動画】EURO2024準々決勝、スペイン対ドイツのハイライトをチェック!
もともとスピードとパワーを兼備するフィジカルモンスターとして鳴らしていた。対人戦にめっぽう強く、空中戦を制し、ロングボールをことごとく跳ね返し、カバーリングの範囲が異常に広い。その一方で、右SBをこなすなど器用さもあり、CBとしてもドリブルで持ち上がって左右に展開するプレーなどはお手の物だった。
しかし、そんなリュディガーもマドリー加入1年目(2022-2023シーズン)は苦労した。即戦力としての活躍を期待された彼にカルロ・アンチェロッティ監督が最初に用意したのは、不慣れな左SBのポジションだった。W杯による中断期間を経て、徐々に本職のCBとしての出場機会が増えたものの、強敵相手のビッグゲームでは、あくまでもエデル・ミリトンとダビド・アラバに次ぐ3番手だった。
同シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1レグ、マンチェスター・シティ戦でアーリング・ハーランドを完璧に封じて一躍脚光を浴びながら、ミリトンが累積警告による出場停止から戻ったアウェーの第2レグでベンチスタートだった事実が、その立ち位置を物語っていた。
しかしその一方で、ポテンシャルの高さは随所に垣間見せていた。試合をこなすにつれて、周りとの連携が磨かれ、2年目はその圧倒的な個の力をチームに還元するようになる。そしてミリトンの怪我に乗じて、レギュラーポジションを任されたことですべてが好転。さらにアラバも大怪我を負うなど事態が変化する中でDFリーダーに君臨するに至り、そのまま一度もアクセルを緩めることなくシーズンを乗り切った。
15回目のCL制覇を果たしたマドリーの守備の中心には、常にリュディガーがいた。少々チーム全体が間延びしても、後方にスピードとパワーでカバーしてしまうこの“火消し役”がいたからこそ、前がかりになって攻めることができた。また、CL準々決勝のシティとのPK戦で、第5キッカーとして冷静に決め、熱戦に決着をつけたのも、幼少時代にランボーと呼ばれ、元マドリーCBのペペを師事するこのドイツ代表CBだった。
EURO2024での大車輪の働きも、まさにその延長線上にある。準々決勝のスペイン戦では、延長後半の119分にミケル・メリーノに裏を取られ決勝点を奪われたが、これはボールウォッチャーになってしまう悪癖が顔を覗かせたというよりも、ただでさえフル稼働が続いていた中、デンマーク戦(ベスト16)の出場が危ぶまれるほどだった太ももの負傷の影響もあり、最後に力尽きたという印象のほうが強い。守備者として圧倒的な存在感を放つだけでなく、ビルドアップや後方からのロングパスによるチャンスメイクで、普段マドリーで見せている以上に攻撃にも積極的に関与した。
リュディガーこそが今季の欧州ナンバーワンCBだ――。スペインを中心に、ヨーロッパではそのような声が多方面で飛び交っている。
文●下村正幸
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