海外サッカー

重苦しかったバルサの空気感を一変させたヤマル。現地メディアは「バルサはこのチャンスを活かせなければ、それは犯罪に値する」と警鐘を鳴らす

下村正幸

2024.07.17

EURO2024で最優秀ヤングプレーヤー賞に輝いたヤマル。(C)Getty Images

「イルシオン」とは、スペイン語で希望や期待などポジティブな感情を意味する。サッカーの世界でも「ファンにいかにイルシオンを与えるか」といった具合に、頻繁に使用される言葉だ。

 近年のバルセロナは、そのイルシオンがどんどん希薄になっていた。リオネル・メッシの退団が決定的な引き金となり、ジョアン・ラポルタの会長再任も、シャビの監督就任も、状況を好転させる起爆剤とはならなかった。宿敵のレアル・マドリーがその間、チャンピオンズリーグの優勝回数をさらに増やし、おまけに今夏、キリアン・エムバペを獲得した。

 一方のバルサと言えば、現時点で今夏の新戦力はゼロで、唯一の新しい顔であるハンジ・フリック監督の就任記者会見さえ行なわれていない。しかしそんな重苦しかったバルサの空気感を一気に変えるだけの特大のイルシオンをもたらす出来事が起きた。EURO2024でのラミネ・ヤマルのセンセーショナルな活躍である。

 ヤマルは、バルサが獲得を目指すニコ・ウィリアムス(アスレティック・ビルバオ)と両翼を担って攻撃を牽引し、スペイン代表の史上4度目となる優勝に貢献。大会最多の4アシストをマークし、最優秀ヤングプレーヤー賞を受賞した。

 このヤマルがもたらしたイルシオンの効果を力説するのが、スペインのスポーツメディア界の重鎮、サンティアゴ・セグロラ氏だ。
 
「バルサのポジションが大きく変わった。メッシの退団をきっかけにはまり込んだメランコリックなループから抜け出し、強力なスポンサーを引きつけるための絶好のチャンスを手にした。EUROが始まる前は、ヤマルはまだ生まれたばかりのスターだった。しかし4週間余りの開催期間は、彼をワールドクラスのスターに押し上げた」

 そしてこの天からの贈り物の恩恵を誰よりも受けている人物が、ラポルタ会長だ。昨シーズンは無冠に終わり、二転三転の末にクラブレジェンドのシャビ監督を追い出した決断が尾を引く中での出来事だった。振り返れば、第1次ラポルタ政権の時もジョゼップ・グアルディオラの招聘がすべてを好転させ、窮地を脱したことがある。2008年夏の出来事だ。

 スペイン紙『スポルト』の編集長ジョアン・ベリス氏は、そのラポルタ会長の"持っている男ぶり"を指摘する。

「ラポルタはあらためて、生まれながらにして花を持った人物であることを示した。最も困難な状況に直面している時にいつも現われるものだ。今夏は、エムバペが加わってスーパースター軍団となったマドリーが話題を独占するはずだった。しかし一夜にして、ヤマルがスポットライトを奪ってしまった。今は誰もエムバペのことを話題にせず、バルサの財政問題も後回しにされている。そう、ラポルタは花を持っている」

 もっとも、これはとんでもないダイヤの原石にさらに磨きをかけるという重大な責任を担うことも意味する。前出のセグロラ氏は強い口調で警鐘を鳴らす。「バルサはこのチャンスを活かせなければ、それは犯罪に値する」

文●下村正幸

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