スペインの一般紙『ウルティマ・オラ』は、「秋の補強」と表現した。これは、ラ・リーガ第６節のレアル・ソシエダ戦を最後に右足ハムストリングの負傷で２か月以上戦列を離れていたマジョルカの浅野拓磨の復帰を報じたものだ。

　その記事が掲載されたのは11月29日に行なわれたラ・リーガ第15節のバレンシア戦の２日前。その試合は結局、浅野は招集外となり、その後もプレーしたのは84分から出場した翌16節のセルタ戦のみにとどまり、まだ様子を見ながら起用している段階だが、地元のメディアやファンの期待の大きさは伺える。

　シーズン序盤、セルジ・ダルデル、オマール・マスカレル、サム・コスタらパッサーのロングフィードに呼応して、裏のスペースへ飛び出す爆発的なスピードが右サイドで相手の脅威になっていた矢先のアクシデントだった。しかも10月中旬に一時復帰に近づいていた中、痛みを再発させ、プレー機会が先延ばしとなっていた。

　待ちに待った復帰であることは、ラ・リーガ第14節のラス・パルマス戦前のハコバ・アラサテ監督の記者会見での言葉が裏付ける。

「筋肉系のトラブルだ。（ピッチを離れて）もう随分経つが、慎重に進める必要があった。彼は自分の限界値までギアを上げて、スピードを前面に押し出してプレーする。だからリハビリも、そうした点も踏まえて行なわれなければならなかった。全体練習に戻れば、復帰の見通しも立つだろう。我々はみんな彼の復帰を心待ちにしている。でも最も重要なのは、100％の状態で戻ることだ。だから慎重を期している」
  　もちろん浅野にとっても思いは同じだ。オンラインによる日本人ファンとのインタビューの中で「早くピッチに戻って、チームを助けたい。その一員になりたい」と熱く語っている。ちなみにこのインタビューは、マジョルカの公式サイトに掲載されており、その中でこの浅野の言葉は一つのファミリーのように一致団結したチームを示す証と評価されている。

　そのインタビューからも浅野が現地に溶け込んでいる様子が伝わってくるが、その中でも特に仲が良いチームメイトと明言するのがアブドン・プラッツだ。前述のインタビューでは、２人の出会いの経緯について話している。「彼が今年の6月に日本に来た時だった（マジョルカのメインスポンサー『株式会社タイカ』のプロモーション活動、およびJ2清水エスパルスとのパートナーシップ契約延長のために来日）。僕がレストランで食事していると、たまたま隣の個室に彼がいた。すぐに紹介してもらい、一緒にプレーする可能性について話し合った」

　そして翌月、浅野のマジョルカへの加入が決まり、２人はすっかり意気投合。ちなみにアブドンのいまの関心事の一つが、今年J1復帰を決めた清水エスパルスのようで、よくチームの動向に関する話を浅野にしてくるそうだ。

　戦線復帰後、まだ出番は限られているが、浅野はアラサテ監督から確かな信頼を得ている。これから周りとの連携をさらに深めていけば、よりスピードが活かされ、フィニッシュに絡む頻度も増えてくるだろう。

　前述の『ウルティマ・オラ』紙は、怪我をする前の浅野のパフォーマンスについて「ゴールこそ決められなかったが、思い切りの良さと縦への推進力を武器にマジョルカの攻撃を活性化し、ラインいっぱいに幅を取って、チームメイトにより広いスペースを与えていた」と分析。「ジャガーが再び咆哮をあげようとしている」と期待感を煽っている。良き理解者、アラサテ監督と結束力の高いチームに支えられて、シーズン後半戦では浅野の反撃が見られるだろう。

文●下村正幸

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