一連の救助活動は迅速に行なわれた。倒れてから救急処置を受けて救急車に運ばれるまでが約4分間、その5分後にはスタジアムから8キロほど離れた病院に到着し、さらに4分後には救急救命室で処置を受けていた。救急車の中で除細動などの治療を受けたことで、到着時点では心拍、呼吸ともに安定しており、すでに意識を取り戻していたという。
ただ、こうした事例によくあるように軽い譫妄(せんもう)状態にあったため、人工呼吸器をつけてCTスキャンなどの検査を行ない、集中治療室に移して鎮静状態に置いたうえで経過観察する措置が取られた。2日朝には人工呼吸器も取り外され、家族や監督、チームメイトとも面会するなど、回復は順調に進んでいるようだ。当面のところは、心臓病分野ではイタリアでも有数といわれるカレッジ病院にとどまって、さらに詳しい検査を受ける予定となっている。
ちなみに、ボーベが倒れた直後にカタルディが行なった、口の中に指を入れて舌を動かす処置は、気道を確保する上で状況によっては有効だが、救急医療においては推奨されていない方法だという。理由は、指を噛まれるリスク、患者の口腔内を傷つけるリスクなどがあるため。迅速な気道確保は救命のためには重要だが、救急医療の専門的な訓練を受けた人が、下顎挙上法(仰向けの状態で頭部を固定し、両手で下あごを引き上げることで舌を前方に引き出す方法)などリスクの低い方法で行なうことが望ましいとされる。
病院に搬送された際の医療報告書によれば、ボーベの心停止は、心臓が速く不規則に拍動する「トルサード・ド・ポアント」と呼ばれる心室性不整脈の一種によって引き起こされており、血中のカリウム値が低かったことが直接の原因とされている。
伊紙『Gazzetta dello Sport』のインタビューを受けたミラノ・ガレアッツィ病院の心臓専門医ダニエレ・アンドレイーニは、「心停止の引き金となった心房細動の原因である不整脈が遺伝的な心筋症、冠動脈の異常、心筋炎などによるもの、再発の可能性が高い場合には、競技への復帰は難しいかもしれないが、それを判断するためには心臓MRI、冠動脈スキャンなどの徹底した検査が必要になるため、その結果が出るまでは何とも言えない」としている。
冒頭で触れたエリクセンや元オランダ代表のダレイ・ブリントのように、心房細動のリスクを抱えながら、皮下に超小型の除細動器を埋め込むことでそれを低減し、トップアスリートとして競技生活を続けている例はある。しかしイタリアのスポーツ健康基準はヨーロッパで最も厳しい部類に入っており、他の多くの欧州諸国とは異なり、埋め込み式除細動器は許容されていない。
EURO2020当時インテルに在籍していたエリクセンが復帰後、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに移籍したのも、それが直接の理由だった。ブリントもアヤックスでプレーしていた2019年に心疾患が判明し、除細動器の埋め込みを受けて復帰。アヤックス(オランダ)、バイエルン(ドイツ)、ジローナ(スペイン)と、この機器の使用が認められている国のクラブでプレーを続けている。
現時点ではすべてが仮定の話になるが、もしボーベに心房細動の再発リスクが高いという診断が下された場合には、プレーを断念するか、除細動器を埋め込んだうえで、イタリア国外でプレーを続けるかという判断を迫られる可能性もある。今は、その必要がないという診断が出ることを祈りながら、詳細な検査結果を待つしかない。
文●片野道郎
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ちなみに、ボーベが倒れた直後にカタルディが行なった、口の中に指を入れて舌を動かす処置は、気道を確保する上で状況によっては有効だが、救急医療においては推奨されていない方法だという。理由は、指を噛まれるリスク、患者の口腔内を傷つけるリスクなどがあるため。迅速な気道確保は救命のためには重要だが、救急医療の専門的な訓練を受けた人が、下顎挙上法(仰向けの状態で頭部を固定し、両手で下あごを引き上げることで舌を前方に引き出す方法)などリスクの低い方法で行なうことが望ましいとされる。
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伊紙『Gazzetta dello Sport』のインタビューを受けたミラノ・ガレアッツィ病院の心臓専門医ダニエレ・アンドレイーニは、「心停止の引き金となった心房細動の原因である不整脈が遺伝的な心筋症、冠動脈の異常、心筋炎などによるもの、再発の可能性が高い場合には、競技への復帰は難しいかもしれないが、それを判断するためには心臓MRI、冠動脈スキャンなどの徹底した検査が必要になるため、その結果が出るまでは何とも言えない」としている。
冒頭で触れたエリクセンや元オランダ代表のダレイ・ブリントのように、心房細動のリスクを抱えながら、皮下に超小型の除細動器を埋め込むことでそれを低減し、トップアスリートとして競技生活を続けている例はある。しかしイタリアのスポーツ健康基準はヨーロッパで最も厳しい部類に入っており、他の多くの欧州諸国とは異なり、埋め込み式除細動器は許容されていない。
EURO2020当時インテルに在籍していたエリクセンが復帰後、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに移籍したのも、それが直接の理由だった。ブリントもアヤックスでプレーしていた2019年に心疾患が判明し、除細動器の埋め込みを受けて復帰。アヤックス(オランダ)、バイエルン(ドイツ)、ジローナ(スペイン)と、この機器の使用が認められている国のクラブでプレーを続けている。
現時点ではすべてが仮定の話になるが、もしボーベに心房細動の再発リスクが高いという診断が下された場合には、プレーを断念するか、除細動器を埋め込んだうえで、イタリア国外でプレーを続けるかという判断を迫られる可能性もある。今は、その必要がないという診断が出ることを祈りながら、詳細な検査結果を待つしかない。
文●片野道郎
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