ワイドに切れていくサービスを、強打した相手のリターンがネットを叩く。その乾いた音に続き、大坂なおみの「カモーン!」の叫びが、マーガレット・コート・アリーナに響いた。
テニス四大大会の「全豪オープン」2回戦、対ソラナ・シルステア(ルーマニア)戦。2019年、そして2021年同大会の優勝者でもある大坂が、苦しみながらも6-3、4-6、6-2のスコアで勝利をつかみとった。
試合後の握手の際、両者間に緊張が走ったのは、シルステアが「あなたはフェアプレーが何かを知らない」と大坂に言い放ったから。伏線は、第3セットのゲームカウント4-2、シルステアのサービス時にあった。ファーストサービスとセカンドサービス間に、大坂が「カモン」と声を上げたことに対し、シルステアが「妨害行為ではないか」と抗議。主審は「問題ない」と返したが、シルステアは納得していなかったようだ。
シルステアが募らせた苛立ちは、実のところこの「カモン」の一件のみならず、複合的な要因にあったかもしれない。今季限りの引退を表明している元21位の35歳が、今大会にかけていた思いは想像に難くない。33歳時に足を負傷し引退も考えたが、「コートに立ち、笑顔でキャリアを終えたい」と手術を決意。昨年は歓喜のツアー優勝も成し遂げ、トップ50にも返り咲いた。
そして“最後の全豪オープン”の2回戦で、元世界1位と伍して渡り合い、第2セットを奪ったのである。ただ第3セットは、早々に大坂にブレークされて劣勢に。手にしたはずの主導権がこぼれ落ちる焦りや困惑も、シルステアにはあったはずだ。
一方で、大坂が試合終盤で再び流れを取り戻せたのも、決して偶然ではない。
「第2セットでは、増え始めた自分のミスにばかり頭が行ってしまった。第3セットではもっと伸び伸びとラリーし、さらに、相手のバックハンド側に打つのは避けるようにした」と、大坂が述懐する。相手の長所を封じ、心地よくプレーさせないための戦術選択こそが、勝利への道を築いた。
実は、大坂が試合後にこのような“戦術変更”に関してコメントしたのは、今回だけではない。
1回戦のアントニア・ルジッチ(クロアチア/同65位)との試合も、シルステア戦と実に似た展開だった。第1セットは取るも、第2セットは相手のバックハンドのダウンザラインに苦しめられて奪われる。第3セットも2度のブレークを許し4-3とリードされるなど、苦しい展開となった。
ただここから大坂は、3ゲーム連続奪取で勝利へと駆け込む。試合後に大坂は「相手のバックハンドが良いことはわかっていたので、最後の3ゲームでは、フォアハンドを狙うようにした」と勝因を語った。
ここで気になるのは、大坂は相手の長所を最初から「わかっていた」のか、それとも試合終盤で気が付き狙うようにしたのか...である。
その問いを向けられると大坂は、ばつの悪そうな笑みを浮かべて、こう応じた。
「わたしが頑固なのは、みんな知ってるでしょ?相手のバックハンドが、とても良いことはわかっていた。でもわたしは、『自分のバックハンドの方がいいはず!』って思ってしまった。現実的なことを言えば、もっと早く攻め方を変えるべきだったけれど...、わたしは時に、難しい生き方を選んでしまうの」
そう明かす彼女は、「実のところ、バックハンドの打ち合いは楽しかった」と笑っていた。
相手の武器を知った上で、あえて真っ向勝負したいという、どこか無垢で無邪気な闘争心。そして最後は、結果を求める勝負師の資質。
それらの両輪を駆動させ、大坂は疾走する。
現地取材・文●内田暁
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テニス四大大会の「全豪オープン」2回戦、対ソラナ・シルステア(ルーマニア)戦。2019年、そして2021年同大会の優勝者でもある大坂が、苦しみながらも6-3、4-6、6-2のスコアで勝利をつかみとった。
試合後の握手の際、両者間に緊張が走ったのは、シルステアが「あなたはフェアプレーが何かを知らない」と大坂に言い放ったから。伏線は、第3セットのゲームカウント4-2、シルステアのサービス時にあった。ファーストサービスとセカンドサービス間に、大坂が「カモン」と声を上げたことに対し、シルステアが「妨害行為ではないか」と抗議。主審は「問題ない」と返したが、シルステアは納得していなかったようだ。
シルステアが募らせた苛立ちは、実のところこの「カモン」の一件のみならず、複合的な要因にあったかもしれない。今季限りの引退を表明している元21位の35歳が、今大会にかけていた思いは想像に難くない。33歳時に足を負傷し引退も考えたが、「コートに立ち、笑顔でキャリアを終えたい」と手術を決意。昨年は歓喜のツアー優勝も成し遂げ、トップ50にも返り咲いた。
そして“最後の全豪オープン”の2回戦で、元世界1位と伍して渡り合い、第2セットを奪ったのである。ただ第3セットは、早々に大坂にブレークされて劣勢に。手にしたはずの主導権がこぼれ落ちる焦りや困惑も、シルステアにはあったはずだ。
一方で、大坂が試合終盤で再び流れを取り戻せたのも、決して偶然ではない。
「第2セットでは、増え始めた自分のミスにばかり頭が行ってしまった。第3セットではもっと伸び伸びとラリーし、さらに、相手のバックハンド側に打つのは避けるようにした」と、大坂が述懐する。相手の長所を封じ、心地よくプレーさせないための戦術選択こそが、勝利への道を築いた。
実は、大坂が試合後にこのような“戦術変更”に関してコメントしたのは、今回だけではない。
1回戦のアントニア・ルジッチ(クロアチア/同65位)との試合も、シルステア戦と実に似た展開だった。第1セットは取るも、第2セットは相手のバックハンドのダウンザラインに苦しめられて奪われる。第3セットも2度のブレークを許し4-3とリードされるなど、苦しい展開となった。
ただここから大坂は、3ゲーム連続奪取で勝利へと駆け込む。試合後に大坂は「相手のバックハンドが良いことはわかっていたので、最後の3ゲームでは、フォアハンドを狙うようにした」と勝因を語った。
ここで気になるのは、大坂は相手の長所を最初から「わかっていた」のか、それとも試合終盤で気が付き狙うようにしたのか...である。
その問いを向けられると大坂は、ばつの悪そうな笑みを浮かべて、こう応じた。
「わたしが頑固なのは、みんな知ってるでしょ?相手のバックハンドが、とても良いことはわかっていた。でもわたしは、『自分のバックハンドの方がいいはず!』って思ってしまった。現実的なことを言えば、もっと早く攻め方を変えるべきだったけれど...、わたしは時に、難しい生き方を選んでしまうの」
そう明かす彼女は、「実のところ、バックハンドの打ち合いは楽しかった」と笑っていた。
相手の武器を知った上で、あえて真っ向勝負したいという、どこか無垢で無邪気な闘争心。そして最後は、結果を求める勝負師の資質。
それらの両輪を駆動させ、大坂は疾走する。
現地取材・文●内田暁
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