全米オープン 男子シングルス1回戦 8月26日(現地時間)
西岡良仁(JPN)3-6 6-4 6-4 6-4 M・ギロン(USA)
最近、テニスはゲームだと捉えている――。
ベスト8へと躍進したシンシナティでも、そして今大会を迎える前にも、西岡はそのような言葉を口にしていた。それは、1本のショットや、ラリー戦の中での駆け引きや組み立てのみならず、試合全体を通して一つの物語を描くように、種々の伏線や布石を打つことを指している。特にサービスゲームでは、ここぞという局面まで得意のコースや球種を敢えて隠すなど、相手に与える精神的ダメージまで考慮している様子。だからこそ、「テニスが今、すごく面白い」のだと、西岡は言った。
今大会初戦のギロン戦でも、彼は試合をゲーム感覚で捉え、シナリオを描く才覚を存分に発揮する。第1セットは、相手がバックで放つ中ロブ気味の緩いボールにリズムを崩されるが、第2セットに入る前には、「相手はバックでは攻められない。チャンスが来るまで、バックに打っていけば大丈夫」と半ば確信した。
「今、すごく自信がある。ファーストセットを落としても、チャンスはあると思えていた」という冷静さで、取るべき策を素早く弾き出し、第2セットを奪い返す。 さらに今の西岡が、自覚的に取り組み成果も残しているのが、ネットプレー。それを実践するには「勇気が必要」と言うが、その胆力を西岡は、しびれる局面でこそ発揮した。圧巻は、試合の趨勢を一つ決した、第3セットの第3ゲーム。ブレークポイントに達したのは、フォアの完璧なドロップボレー。さらにブレークを奪ったのも、果敢なネットプレーだった。その後もピンチの局面でこそ、勇を鼓しネットに出て、大きなポイントをもぎ取る。
分析力、作戦立案力、そして遂行する勇気と確かな技術――。それら全てを動員した、西岡の成長を体現する快勝だった。
取材・文●内田暁