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海外テニス

世界最高レベルの技術者でも解雇。フェデラー専属ストリンガーが語るコロナ禍での窮状

Hustle

2020.06.05

フェデラー、ジョコビッチなど世界トップレベルの選手を相手にするストリンガーたちでも、新型コロナウイルスの影響に苦しんでいる。(C)GettyImages

フェデラー、ジョコビッチなど世界トップレベルの選手を相手にするストリンガーたちでも、新型コロナウイルスの影響に苦しんでいる。(C)GettyImages

 韓国生まれのアメリカ人で、幼少期に韓国人の両親と一緒にアメリカに移住したロン・ユーさんは、世界でも有数のストリンガーのひとりだ。これまで担当した選手は、アンドレ・アガシ、レイトン・ヒューイット、スタン・ワウリンカ、ロジャー・フェデラーなど、最高のプレーヤーばかり。彼らが獲得した合計33回のグランドスラムシングルスタイトルの内、23回はユーさんがストリンギングしたラケットで成し遂げられたものだという。

 ユーさんは、2001年から『プライオリティ・ワン』というプロのストリンガー集団の一員となった。プライオリティ・ワンは、ピート・サンプラスの元ストリンガーとして知られるネイト・ファーガソンさんが設立した用具ケア専門の会社で、世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチや、前述のフェデラーなど、少数精鋭の男子選手のみを対象にサービスを提供している。主に4つのグランドスラムトーナメントや、ATPツアーの最上位イベントでのサービス提供に力を入れている。

 長年、世界最高レベルのプレーヤーたちから、絶大なる信頼を寄せられてきた彼らだが、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大により、彼らの業務も多大な影響を受けているという。『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューを受けたユーさんが、現在の状況について語った。

 3月上旬にツアーが中断となって約3カ月が経過したが、大会が行なわれていない今は、会社としての収入は基本的にゼロだ。平常時には、プロ選手のために1日25~30本のラケットを張り上げていたユーさんも、今となってはアマチュアプレーヤーから依頼される1~2本のラケットのみ。
 
 同僚の3人の技術者のうちの1人で、ジョコビッチやアンディ・マリーを担当していたグリン・ロバーツさんは解雇となった。幸いにもユーさんは減給のみという対応になったが、そのぶんを補うために、フロリダ州タンパの自宅近くでデータ入力のアルバイトを始めたという。

 これまでの生活とは全く異なる環境だ。一年の半分ほどを海外で過ごしていたユーさんは「テニスツアーは、小さな村が世界中を旅しているようなものだ。違う都市にいてもいつも同じ人たちと会う。時には『もう飽きた』と感じることもあったけれど、違う仕事を始めたことで、今までどれほど恵まれた環境にあったのか気が付いた。早く元の生活に戻りたいよ」とこぼした。

 世界中のストリンガーが同じような状況に置かれている。グランドスラムで仕事をするストリンガーの多くが、自身でテニスショップを経営していたり、ショップに勤務しているが、彼らのほとんどが収入の8~9割を失っているそうだ。「この仕事は、普段からあまり稼げる仕事ではないが、快適な暮らしを送るには十分だった。今起こっていることは、ストリンガーにとっても、ショップのオーナーにとっても悲惨な状況だよ」

 テニスツアーは年間を通して世界中を巡る。ヨーロッパでは新型コロナウイルスの猛威が収まりつつあるが、北米、南米、アフリカなどはまだまだ危険な状況だ。彼らが普段通りの生活を取り戻すのはいつになるのか。それまでの期間を、なんとか乗り越えてくれることを願うばかりだ。

文●Hustle

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