「去年から変わったことは、すごくたくさんあると思う。多くを学んだし、チームのみんなともたくさん話し、彼らをすごく信用するようになったの」
全豪オープン前哨戦の初戦(1回戦Byeの2回戦)を終えた時、大坂は1年前と現在地点との差異を、そのように説明した。
思えば去年の全豪は、彼女が初めて、新コーチのウィム・フィセッテをチームに迎えて挑んだ大会だった。データ分析と戦術立案を得手とすることで知られる新コーチは、大坂のテニスに良い変革をもたらすと思われたが、結果は3回戦での敗退。16歳の新鋭ココ・ガウフの勢いに飲まれた敗戦は、技術やフィジカル以上に、精神面で後塵を拝したかのような内容だった。
今になり大坂は、1年前のその時を、「試合前にものすごくナーバスになっていたが、そのことを誰にも打ち明けることができなかった」と振り返る。
その人知れぬ孤独な時から1年が経ち、今の彼女は「コーチとはお互いをよく知り、信頼を深めることができた」と言った。今は試合前にも、そして試合後にも、大坂とフィセットは多くを話し合い、それが良い方向に向かうのだとも言う。
例えば前哨戦でも初戦を終えた後、大坂はバックハンドの調子が今ひとつだと感じていた。それをすぐに話し合い、微調整をできたことが、技術的にも、そして精神的にも助けになっていたという。
両者が以心伝心と呼べるまでに意思疎通ができていることは、準々決勝の対ベグ戦でも見ることができた。
第1セットのゲームカウント4-4で迎えた第9ゲームで、大坂がやや集中力を欠いたミスを3本連ねた場面。その瞬間、それまでファミリーボックスで静観していたフィセッテが、「カモン、なおみ!」と鋭く叫び手を叩いた。
客席のコーナーに座るコーチの声は、コートの反対側に立つ大坂には、物理的に届きはしなかっただろう。それでも大坂は、まるでコーチの激が聞こえたかのように、鋭いサービス2本を含む4連続ポイント奪取で、あっさりとブレークの危機をしのいでみせた。
ここが勝負どころだ――そのような意識の共有が、顕在化したシーンである。
このような以心伝心が本当にあることは、後に大坂が認めている。試合中には必ずしも、ベンチの声が聞こえるわけではない。距離が離れている時、あるいは観客の声援があれば、なおのことだ。
それでも大坂は、「聞こえるというより、“感じる”ことがあるの」という。
「思いが伝わるというか、オーラというか……私、変なこと言ってるかしら?」
そう言い大坂は少しぎこちなく笑ったが、言わんとしていることは、十分に伝わってきた。
今回の全豪で大坂が歩む対戦カードは、メディアや関係者たちの間で「上位選手としては、もっとも厳しいドロー」と話題になるほどに過酷なものだ。にもかかわらず大坂は、「私はタフな選手と、特にグランドスラムで対戦するのが好きなの」と不敵に笑う。
深い絆で結ばれたチームの面々と共に、1試合、また1試合と戦うたびに話し合いを重ね、意思を通わせ、険しい山を踏破する――。そんな新たなアプローチでの戦いが、秋の気配漂い始めた南半球で、スタートする。
文●内田暁
【PHOTO】全米・全豪を制し日本テニス界を牽引!大坂なおみのキャリアを厳選写真で一挙振り返り!
全豪オープン前哨戦の初戦(1回戦Byeの2回戦)を終えた時、大坂は1年前と現在地点との差異を、そのように説明した。
思えば去年の全豪は、彼女が初めて、新コーチのウィム・フィセッテをチームに迎えて挑んだ大会だった。データ分析と戦術立案を得手とすることで知られる新コーチは、大坂のテニスに良い変革をもたらすと思われたが、結果は3回戦での敗退。16歳の新鋭ココ・ガウフの勢いに飲まれた敗戦は、技術やフィジカル以上に、精神面で後塵を拝したかのような内容だった。
今になり大坂は、1年前のその時を、「試合前にものすごくナーバスになっていたが、そのことを誰にも打ち明けることができなかった」と振り返る。
その人知れぬ孤独な時から1年が経ち、今の彼女は「コーチとはお互いをよく知り、信頼を深めることができた」と言った。今は試合前にも、そして試合後にも、大坂とフィセットは多くを話し合い、それが良い方向に向かうのだとも言う。
例えば前哨戦でも初戦を終えた後、大坂はバックハンドの調子が今ひとつだと感じていた。それをすぐに話し合い、微調整をできたことが、技術的にも、そして精神的にも助けになっていたという。
両者が以心伝心と呼べるまでに意思疎通ができていることは、準々決勝の対ベグ戦でも見ることができた。
第1セットのゲームカウント4-4で迎えた第9ゲームで、大坂がやや集中力を欠いたミスを3本連ねた場面。その瞬間、それまでファミリーボックスで静観していたフィセッテが、「カモン、なおみ!」と鋭く叫び手を叩いた。
客席のコーナーに座るコーチの声は、コートの反対側に立つ大坂には、物理的に届きはしなかっただろう。それでも大坂は、まるでコーチの激が聞こえたかのように、鋭いサービス2本を含む4連続ポイント奪取で、あっさりとブレークの危機をしのいでみせた。
ここが勝負どころだ――そのような意識の共有が、顕在化したシーンである。
このような以心伝心が本当にあることは、後に大坂が認めている。試合中には必ずしも、ベンチの声が聞こえるわけではない。距離が離れている時、あるいは観客の声援があれば、なおのことだ。
それでも大坂は、「聞こえるというより、“感じる”ことがあるの」という。
「思いが伝わるというか、オーラというか……私、変なこと言ってるかしら?」
そう言い大坂は少しぎこちなく笑ったが、言わんとしていることは、十分に伝わってきた。
今回の全豪で大坂が歩む対戦カードは、メディアや関係者たちの間で「上位選手としては、もっとも厳しいドロー」と話題になるほどに過酷なものだ。にもかかわらず大坂は、「私はタフな選手と、特にグランドスラムで対戦するのが好きなの」と不敵に笑う。
深い絆で結ばれたチームの面々と共に、1試合、また1試合と戦うたびに話し合いを重ね、意思を通わせ、険しい山を踏破する――。そんな新たなアプローチでの戦いが、秋の気配漂い始めた南半球で、スタートする。
文●内田暁
【PHOTO】全米・全豪を制し日本テニス界を牽引!大坂なおみのキャリアを厳選写真で一挙振り返り!