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「調査される必要がある」性暴力被害を告発した元世界1位の中国のテニス選手が行方不明。WTAが公式声明を発表<SMASH>

中村光佑

2021.11.16

行方不明で安否が心配されるペン・シューアイ。(C)Getty Images

 女子ダブルス元世界ランキング1位のペン・シューアイ(中国)が、2012年から17年の5年間にわたり共産党最高指導部メンバーの一員であった75歳の張高麗(チャン・カオリー)前副首相から性的暴行を受けていたと告発。その彼女が現在行方不明となっており、テニス界でも心配の声が相次いでいる。

 事態の収拾へ向けてWTAの(女子テニス連盟)CEO(最高責任者)を務めるスティーブ・サイモン氏が11月14日に公式声明を発表。ペンに対する検閲の停止を中国当局に要求した上で、「性的暴行を伴う中国の元指導者の行動に関する彼女の告発は真剣に扱われなければならない。私たちの絶対的かつ揺るぎない優先事項は、選手の健康と安全だ。どのような社会においても、今彼女(ペン)が主張しているような行為は、容認されたり無視されたりするのではなく、調査される必要がある」と主張した。

 続けてサイモン氏は「私たちは、名乗り出たペン・シューアイの勇気と力強さを称賛する。今は世界中の女性が声を上げ、不正を正すことができるようになっている」とコメントし、その後、「私たちは、この問題が適切に処理されることを期待している。疑惑は完全に、公正に、透明に、検閲なしに調査されなければならない」と一連の騒動の解決へ協力を求めた。
 
 なお、現段階ではこの一件に関する張氏のコメントは発表されておらず、中国外務省の汪文斌(ワン・ウェンビン)報道局長も今月初旬に北京で開かれた定例記者会見で「特に聞いておらず、外交に関する問題でもない」として回答を拒否した。

 現在35歳のペンは、13年ウインブルドンと14年全仏オープンのダブルスで優勝し、中国テニス界史上「最も成功したプレーヤー」とも称されている。ペンの主張によれば、張氏が天津市トップの党委員会書記だった時期に男女の関係を持った。張氏が習近平指導部の政治局常務委員に任命されると一旦連絡が途絶えたが、同氏は政界を引退した直後に、再びペンとコンタクトを取り、一緒にテニスをした後に妻のいる自宅で性的行為を強要したという。

 ペンは張氏と「10年ほど断続的な関係が続いていた」と告白。その上で当時の状況について「その日の午後、私はあなた(張氏)には同意せず、涙が止まらなかったのです。(それでも)あなたが私を自分の家に連れ込んで、私とあなたが関係を築くことを強制しました」と説明していた。

 米大手ニュースメディア『CNN』によると、ペンがウェイボーに公開した文書はわずか30分ほどで削除されたという。さらに、ペンのウェイボーアカウントは中国当局から徹底した検閲を受けたことにより検索対象から除外されており、ユーザーは現在、彼女の投稿にコメントはできない状態となっている。

文●中村光佑

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