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海外テニス

錦織圭と並走する元デ杯監督の岩渕聡が考える「日本人のテニスツアーコーチ誕生の可能性について」<SMASH>

内田暁

2024.08.19

元デ杯監督の岩渕聡(左)はアシスタントコーチとして錦織圭(右)に帯同してテニス界を構成するピラミッドの最上層の空気を感じている。(C)Getty Images

元デ杯監督の岩渕聡(左)はアシスタントコーチとして錦織圭(右)に帯同してテニス界を構成するピラミッドの最上層の空気を感じている。(C)Getty Images

「僕に声が掛かるって、コーチが足りないんだな――」

 最初にフッと頭に浮かんだのは、そんなフレーズだったと、岩渕聡は苦笑い交じりに明かした。

 昨年末、錦織圭から「アシスタント・ツアーコーチ」のオファーを受けた時のことである。

 ダブルスでATPツアー(男子プロテニスツアー)優勝の実績を持つ岩渕が、現役生活に幕を引いたのは2009年。2017年からはデビスカップ日本代表監督を務め、以降5年間、世界の最前線に身を置いてきた。

 ただ、コーチとして一人の選手を見た経験はない。興味はありながらも、国内の大会新設準備等に勤しんでいた最中に飛び込んできた錦織からのオファーは、青天の霹靂だった。

「いつか(ツアーコーチを)やってみたいとの思いはあったけれど、それがいきなり錦織というのは、ちょっと……」

 そんな狼狽と逡巡もあったと打ち明ける。それでも最終的には、「挑戦したい」の思いが不安や葛藤を上回った。それから半年以上が経った今、「本当に、いろんな新しい経験がいっぱいできた」と、岩渕は自分の言葉に真摯にうなずく。

「自分の足りないところもいっぱい感じた。得たものを日本のテニスコーチに還元したい」

 そんな使命感も、胸に宿して。
 
「ツアーコーチ」とは言葉通り、選手と共に世界中を旅するコーチのこと。なお、「コーチ」の語源は四頭立て馬車。「生徒を乗せて目標地点まで連れていく」の意から、指導者を指すようになったという。

 ツアーコーチの雇用主や収入源は人や状況によっても異なるが、選手個人と年間契約を結ぶケースが多い。必要とされる能力も多岐に渡る。技術と戦術面の指導や分析が基本ではあるが、ヒッティングパートナーの能力や、通訳や運転手的役目を求められることもある。

 さらには長期遠征に出た時に、旅先で練習拠点等を確保できる力がコーチにあれば、選手にとってこんなに心強いことはない。昨年引退した土居美咲さんは、約8年間、ツアーコーチ経験の豊富なクリス・ザハルカと共に転戦した。ザハルカはアメリカとヨーロッパに拠点を持ち、人脈も豊富。世界各地で、滞在先や練習相手を確保してくれることが「クリス(・ザハルカ)がコーチで、一番助かる点」だと、かつて土居さんは述懐した。

 翻って日本のコーチ陣にとっては、その『人脈構築』こそが高い壁になる。岩渕氏も、次のように現状を口にした。
 
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