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海外テニス

日比野菜緒が2年ぶりの四大大会本戦へ。意外にも初の予選突破は「少しずつオトナになってきた」証左【全豪オープン予選・最終日】

内田暁

2020.01.18

予選決勝でアルアバレナに快勝し本戦入りを決めた日比野菜緒(右)。写真=山崎賢人(THE DIGEST写真部)

予選決勝でアルアバレナに快勝し本戦入りを決めた日比野菜緒(右)。写真=山崎賢人(THE DIGEST写真部)

〈女子シングルス予選決勝〉
○日比野菜緒[2](ブラス) 6-1 6-2 ララ・アルアバレナ(スペイン)●

 あれほど「一度は経験して、大喜びしてみたい」と言っていた瞬間を、実際には彼女は表情一つ変えることなく、小さなガッツポーズと共に迎えた。

「もし自分が負けた方だったら、相手に『わー!』って喜ばれたら落ち込むので……。後で、中で喜びたいと思います」
赤みの射す頬に笑みを広げて、彼女は、控えめな祝福の理由を明かした。

 2年ぶりの、グランドスラム・シングルス本戦出場――。それは、すでに本戦の舞台を9度踏んだ日比野菜緒が、初めて予選を突破し勝ち取った権利でもあった。

 現在のランキングは102位で、本戦カットの2番アウトで迎えた今回の全豪予選。昨年9月に、広島でツアー優勝も果たした彼女にとって、それでもなお本戦にわずか届かぬ現在地は、自信と葛藤とが交錯する場所でもある。

 それでも彼女は、「優勝した翌週の東レPPOの1回戦で、半ば投げ出したような試合をしてしまった。その罰として、今私はここにいる」と思うことで、そのもどかしさを割り切った。2番アウトの悔しさも、「自分は本戦にいるべき選手だ」との自負の根拠とする。かくして、揺れる思いに自らの意志で一本の軸を通し、彼女は、メルボルンでの戦いに挑んでいた。
 
 その初戦で日比野は、いきなり厳しい戦いを強いられる。対戦相手は、2年前の全豪Jr.チャンピオンのE-S・リャン(台湾)。第1セットは圧倒した日比野だが、第2セットを奪われると焦りが募り、第3セットでブレークされた時は、「負けを覚悟した……」という。その絶体絶命の危機を、コーチからの「もっとゆったり」の一言で我に返り切り抜けると、2回戦では、ウイナーかミスかという強打自慢の粗いテニスに、徐々に適応し逆転勝利をもぎ取った。

 勝つごとに「調子が上がっている」との自信を手に向かった予選決勝の相手は、初対戦ながら、プレースタイルは良く知るララ・アルアバレナ。「前日、かなり深いところまでイメージングができた」状態でコートに向かった日比野は、そのイメージを自らの身体でコートに描く。スピンをかけたボールを深く打ち込み、時にはリターンでスライスを打つ意外性も放ちながら、試合序盤で主導権を掌握。4ゲーム連取で第1セットを奪い去ると、第2セットは序盤のもつれた精神戦を切り抜け、後は一気にゴールまで走りきった。

 本戦出場を逃したこの2年間は、日比野にとり、多くの浮き沈みを経た年月でもあっただろう。ランキングが100位を切った時には、テニスを続ける意義を見失いかけた。モチベーションが低下したその中で、遠征中にお気に入りのレストランを見つけ、観光にも行くことで気分転換を図る術も会得してきた。

 今回の勝利時に見せた控えめな喜びも、自身の経験に根ざした、相手への敬意にして配慮だろう。

 その末に、初めて予選を勝ち抜き手にした本戦への切符は、本人いわく「少しずつオトナになってきた」ことの、何よりもの証左だ。

取材・文●内田暁

〈男子シングルス予選決勝の結果〉
●守屋宏紀(北日本物産) 6-7(5) 2-6 デニス・ノバク[1](オーストリア)○

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