個人的な経験でいうと、彼がコンタのコーチに就いていた2017年、WTA公式データサプライヤーであるSAP社開催の『データ活用講習会』に登壇したフィセッテに、話を聞かせてもらった時の印象が強く残っている。
そのような場に呼ばれただけあって、彼は、データを積極的に活用するタイプのコーチだった。ただそれも、闇雲にデータや数字に基づいた戦術を、選手に押し付けるのではない。
「選手には、データを用いるのが好きなタイプと、そうではない選手もいる」ことを踏まえ、「例えばアザレンカは、非常に細かいデータを欲しがり、自分でも解析するタイプ。対してコンタは、自分の直感を大切にする選手」だと実例を挙げていく。そのうえで「それぞれの選手にとって必要な情報を選びとり、うまく咀嚼して伝える…、それがコーチの腕の見せどころです」と、彼はある種の矜持を言葉に込めた。
データを信用の根拠と捉えるアザレンカには、対戦相手の情報を細かに伝える。「直感型」のコンタには、「この選手は、ブレークポイント時のアドサイドからのサービスは、95%の確率でバックに打つ」など、勝利に直結するデータのみを与えていった。 そのような観点から大坂とフィセッテの足跡を重ねた時、興味深い事実が浮かび上がる。
大坂は、2016年の全豪でアザレンカと、その翌年にはやはり全豪でコンタと対戦し、いずれも完敗を喫した。2016年の時は腹筋に痛みを抱えていたのも一因だが、どちらも相手に武器を封じられた敗戦であり、試合後には「とても勉強になった」と口にしたのも共通点。
特にコンタ戦では、「サービスが全く読めなかった」ことを真っ先に敗因に挙げ、この試合から学んだこととして「集中すること。サービスはコースが大切だということ。そして攻撃的に前に出ること」を列挙する。これら学び多き敗戦の背後に、データ分析に長けたフィセッテがいたことは間違いないだろう。
そのフィセッテが2020年シーズンは、大坂のサイドに就く。彼はこの数年間、自分が指導する選手の対戦相手として、大坂に鋭い分析の目を向けてきた。その彼の慧眼には、今の彼女がどこを目指し、何を必要としているかがすでに見えているはずだ。
同時にそれは翻って、彼に白羽の矢を立てた大坂にも、今の自分に何が足りなく、どの道を進むべきかが見えているということでもある。
2019年シーズンを、大坂は11連勝の快進撃のままに終えた。その上昇カーブの続きへと、最高の水先案内人が導いていく。
取材・文●内田暁
そのような場に呼ばれただけあって、彼は、データを積極的に活用するタイプのコーチだった。ただそれも、闇雲にデータや数字に基づいた戦術を、選手に押し付けるのではない。
「選手には、データを用いるのが好きなタイプと、そうではない選手もいる」ことを踏まえ、「例えばアザレンカは、非常に細かいデータを欲しがり、自分でも解析するタイプ。対してコンタは、自分の直感を大切にする選手」だと実例を挙げていく。そのうえで「それぞれの選手にとって必要な情報を選びとり、うまく咀嚼して伝える…、それがコーチの腕の見せどころです」と、彼はある種の矜持を言葉に込めた。
データを信用の根拠と捉えるアザレンカには、対戦相手の情報を細かに伝える。「直感型」のコンタには、「この選手は、ブレークポイント時のアドサイドからのサービスは、95%の確率でバックに打つ」など、勝利に直結するデータのみを与えていった。 そのような観点から大坂とフィセッテの足跡を重ねた時、興味深い事実が浮かび上がる。
大坂は、2016年の全豪でアザレンカと、その翌年にはやはり全豪でコンタと対戦し、いずれも完敗を喫した。2016年の時は腹筋に痛みを抱えていたのも一因だが、どちらも相手に武器を封じられた敗戦であり、試合後には「とても勉強になった」と口にしたのも共通点。
特にコンタ戦では、「サービスが全く読めなかった」ことを真っ先に敗因に挙げ、この試合から学んだこととして「集中すること。サービスはコースが大切だということ。そして攻撃的に前に出ること」を列挙する。これら学び多き敗戦の背後に、データ分析に長けたフィセッテがいたことは間違いないだろう。
そのフィセッテが2020年シーズンは、大坂のサイドに就く。彼はこの数年間、自分が指導する選手の対戦相手として、大坂に鋭い分析の目を向けてきた。その彼の慧眼には、今の彼女がどこを目指し、何を必要としているかがすでに見えているはずだ。
同時にそれは翻って、彼に白羽の矢を立てた大坂にも、今の自分に何が足りなく、どの道を進むべきかが見えているということでもある。
2019年シーズンを、大坂は11連勝の快進撃のままに終えた。その上昇カーブの続きへと、最高の水先案内人が導いていく。
取材・文●内田暁