ただいざ試合が始まった時、彼は“アイドル”と打ち合えている自分に気付く。その背景にあったのは、ジョコビッチに憧れてきた履歴だ。
「僕は今、20歳。間違いなく、彼(ジョコビッチ)のプレーを10年は見て育ってきた。そして彼は恐らく、僕のプレーを見たことがない。そこが僕の、唯一のアドバンテージだった」
実際にはジョコビッチは、後に「彼のプレーを見たことはある」と認めている。
「彼のことはあまり知らないが、プレーを見たことはあるし、ベースラインから……特にフォアハンドサイドから、高質のプレーをできることは知っていた。とても才能のある選手だ」
そのようなジョコビッチによる“自分評”を知らないことは、ナルディにとって幸運だったかもしれない。自分の利点を信じ、強い風をジョコビッチが煩わしく感じていることも察しながら、ナルディは集中力を研ぎ澄ませていく。
勝利へのサービスゲームでも、攻撃の手を緩めない。ジョコビッチも警戒したフォアハンドの豪快なスイングボレーでマッチポイントをつかむと、最後は、鋭いスライスサービスでエース。
周囲の音も気にならないほど試合に入り込んでいたナルディは、この時ようやく、コーチの「みんなが君を応援しているぞ!」の声を聞いた。
試合後の会見で、趣深い一幕があった。
次の対戦相手のトミー・ポール(アメリカ)について問われた時、彼は怪訝そうな表情で、「なんでトミー・ポールのことを聞くの?」と問い返したのだ。司会者や記者たちから「次の相手だから」と言われると、「そうなの? 知らなかった、ドローを見ていなかったから」と恥ずかしそうに笑みをこぼす。
彼が先を見ることなく、前の試合のみに集中していることの、何よりの証しだった。
現地取材・文●内田暁
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実際にはジョコビッチは、後に「彼のプレーを見たことはある」と認めている。
「彼のことはあまり知らないが、プレーを見たことはあるし、ベースラインから……特にフォアハンドサイドから、高質のプレーをできることは知っていた。とても才能のある選手だ」
そのようなジョコビッチによる“自分評”を知らないことは、ナルディにとって幸運だったかもしれない。自分の利点を信じ、強い風をジョコビッチが煩わしく感じていることも察しながら、ナルディは集中力を研ぎ澄ませていく。
勝利へのサービスゲームでも、攻撃の手を緩めない。ジョコビッチも警戒したフォアハンドの豪快なスイングボレーでマッチポイントをつかむと、最後は、鋭いスライスサービスでエース。
周囲の音も気にならないほど試合に入り込んでいたナルディは、この時ようやく、コーチの「みんなが君を応援しているぞ!」の声を聞いた。
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次の対戦相手のトミー・ポール(アメリカ)について問われた時、彼は怪訝そうな表情で、「なんでトミー・ポールのことを聞くの?」と問い返したのだ。司会者や記者たちから「次の相手だから」と言われると、「そうなの? 知らなかった、ドローを見ていなかったから」と恥ずかしそうに笑みをこぼす。
彼が先を見ることなく、前の試合のみに集中していることの、何よりの証しだった。
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