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海外テニス

「全ては上達のためのプロセスだから」大坂なおみがシフィオンテクに敗れてなお自分を誇りに思う理由【全仏オープン】<SMASH>

内田暁

2024.05.31

あと1本が取れずに敗れた大坂だが、試合後の表情にはさほど悔いの色は見られなかった。そして自身に向けたノートに「あなたを、誇りに思う」と記した。(C)Getty Images

あと1本が取れずに敗れた大坂だが、試合後の表情にはさほど悔いの色は見られなかった。そして自身に向けたノートに「あなたを、誇りに思う」と記した。(C)Getty Images

 まだ、改善中のフォームが身体になじみきっていないシフィオンテクがナーバスになっていることは、屋根が閉まり無風に近いにもかかわらず、幾度もトスをやり直す姿に見て取れる。シフィオンテクのサービスゲームを、3度ブレークした大坂が第2セットを6-1で奪取。最後のポイントも、大坂の深いリターンを、焦って叩きにいったシフィオンテクのミスだった。

 第3セットも、大坂の勢いは止まらない。ブレークポイントを凌ぎ第最初のゲームをキープすると、続くゲームでも炎のリターン連発でブレーク。そのリードを維持したまま、5-3で大坂のサービスゲーム。勝利は、目の前に迫った。

 だがこのゲームで大坂は、今までになかった幾つかのミスを犯す。30-15の場面では、サービスで崩しオープンコート目がけ放ったショットを、ネットにかけた。

 最初のブレークポイントは凌ぎ、会心のウイナーでマッチポイントに至るも、続くポイントでは、シフィオンテクのリターンに押されバックハンドをネットにかける。最後もバックハンドが長くなり、土壇場でブレークを許した。

 直後の、シフィオンテクのサービスゲーム。大坂はデュースにまで持ち込むが、ブレークするには至らない。続く自身のサービスゲームは、ダブルフォールトでブレークを許した。

 そうして、試合開始から2時間57分――。大坂のバックのクロスがラインを割り、死闘に終止符が打たれる。シフィオンテクとハグを交わし、淡々とバッグを担ぎ出口に向かう彼女は、湧き上がる大歓声に手を振り応えて、センターコートを後にした。
 
 勝利を目前にしながら、相手に5ゲーム連取を許し逆転での敗戦。

 その結末だけを聞くと、プレッシャーや高まる勝利への意識が、彼女の手元を狂わせたと思うかもしれない。だが、そうではなかった。

 試合後の会見での彼女は、終盤の展開をさほど覚えていないほどに、「1ポイントごとに集中していた」と言った。

「私、マッチポイントがあったかすら、覚えていないんだけれど……」 

 そう言い大坂が、首を傾げる。記者席からの「あったよ」との声を聞くと、彼女は苦笑いを浮かべて、チャーミングに言った。

「あったの? ……もーう、最低!」

 改善中のリターンは、第2セットでは62%の高いポイント獲得率を記録し、特に相手のセカンドサービスでは90%、11本中10本をポイントにつなげた。だが第3セットではその数字は、50%に下がる。

「もっと大きく前に踏み込めば、もっとうまくいったのではと思う局面が、何度かあった」と、後に大坂は振り返った。恐らくは、シフィオンテクが「あのゲームを境に、私の中のスイッチが切り替わった」と振り返る5-2でのゲーム、あるいは5-4でのリターンゲームも、そのような「局面」だったかもしれない。

 ただ大坂の声色や表情には、悔いの色はない。

「だって全ては、上達のためのプロセスだから」。そう言い彼女は、柔らかく笑った。
 
 大坂は最近、試合前後や試合中にも、思いついたことをノートに書き止めるようにし始めた。この試合の後、彼女はそのノートに、自身に向けてこんな言葉を書き残したという。

「あなたを、誇りに思う」……と。

現地取材・文●内田暁

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