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海外テニス

選手を苦しめる「ネットの誹謗中傷」にテニス連盟らが“ソーシャルメディア・ボイコット”で抗議<SMASH>

内田暁

2021.05.09

大坂なおみもかつてはSNSを通じた誹謗中傷が怖くて携帯を持たない日もあったという。こうした由々しき状況に世界のスポーツ界が声を上げた。(C)GettyImages

大坂なおみもかつてはSNSを通じた誹謗中傷が怖くて携帯を持たない日もあったという。こうした由々しき状況に世界のスポーツ界が声を上げた。(C)GettyImages

 試合に敗れ、落胆しながらも飛行機を予約しようとスマートフォンを手にした時、新着メッセージの表示があるので開いてみると、そこにはつたない英語でつづられた罵詈雑言が溢れている——。

 そのような経験は、テニス選手なら誰しも一度や二度ならずあるという。

「この役立たず女! とっとと引退しろ!」「お前は最低だ! ロクなことをしやしない!」

 そんな稚拙な文言や、時には「イエローモンキー」などの人種差別的な言葉が書かれることもある。

 その手のメッセージの送り手は、たいていの場合、オンラインギャンブル等で損した人間だ。悪口も単なる八つ当たりで、個人的な関係性からではないことが大多数だろう。

 それでも受けとった側が、心に追うダメージは計り知れない。日本のある女子選手は、両親や弟などの名前が記された上に「お前の家族は知っている。全員殺してやる」との脅迫メッセージを受け取ったことがあると明かした。それもまだ、大会を転戦し始めた10代の頃なのだから、覚えた恐怖は想像に難くない。
 
 4月30日、国際テニス連盟(ITF)は「“ソーシャルメディア・ボイコット”に参加する」と表明した。“ソーシャルメディア・ボイコット”は、イングランドサッカー協会(FA)が旗振り役を務め、選手に向けられる誹謗中傷に抗議すべく、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどの使用を4日間凍結したアクションである。

 同時にFAは、他競技の組織や団体にも広く参加を呼び掛けた。ITFもこの声に賛同し、すべてのソーシャルメディアでの活動を4日間停止した競技運営団体の一つである。

 ITF会長のデビッド・ハガディは参画に際し、以下のような声明文を公開している。

「オンライン上で、プロフェッショナルアスリートやコーチ、審判員に向けられる罵詈雑言は目に余る。それが今回のボイコットに参加する理由であり、ソーシャルメディア運営会社には、個人を守るための行動を起こしてほしい」

 テニス界で、ソーシャルメディアが選手に与える影響として最初に大きな注目を集めたのは、2013年のレベッカ・マリーノの引退だろう。当時22歳だったマリーノは、突然の引退の理由の一つとして「ソーシャルメディアでの誹謗中傷が耐え難い」ことを挙げた。

 その後、大学生活などを経てツアー復帰を果たしたマリーノは、「あの時は精神的に、ツアー生活を続けられる状態ではなかった」と振り返る。そして今後の対策として、ITFやWTA等に「選手が相談できる窓口などを用意してほしい」とも訴えた。
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