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【テニスギア講座】外観は同じような競技用と入門用のラケット、あんなに価格差がある理由は?<SMASH>

松尾高司

2021.10.30

プロが使うような高機能ラケットは、高価格な素材や特殊な製造法が用いられ、販売価格が高くなるが、入門用モデルはシンプルに作られており、価格も抑えめだ。写真:THE DIGEST写真部(左)、松尾高司(右)

プロが使うような高機能ラケットは、高価格な素材や特殊な製造法が用いられ、販売価格が高くなるが、入門用モデルはシンプルに作られており、価格も抑えめだ。写真:THE DIGEST写真部(左)、松尾高司(右)

 各ラケットブランドには、高額な競技用モデルから割と安価なエントリーモデルまでラインナップがあります。今日、競技用モデルの価格は3万円台中盤ぐらいですが、エントリーモデルの多くは2万円台前半という感じです。一体どうしてこんな価格差があるのでしょう?

 競技モデルは、研究開発によって生まれた最新技術や、高額な素材を使用するため、それが価格に反映します。競技者が使用するには、フレーム構造物としての強靭さを生むため、より緻密で正確な製造工程が必要とされ、人件費や特殊技術の費用もかかります。

 対照的にエントリーモデルは、同じ金型を用いながらも、以前からあった技術や一般的なカーボンなどを使うため、製造コストを抑えられるのです。構造的にも、なるべく複雑な手作業や工程を避け、シンプルに構築されているのが普通です。

 実例としてわかりやすいのは「フレーム重量」。一般にエントリーモデルは筋力が弱くてもスイングできるよう、軽量に作られています。軽量ということは、使用するカーボンの量が少なくて済むということです。

 例えば競技モデルでは、だいたい10層くらいのカーボンシートを重ね、さらに補強的に短いパーツシートを各所に配置します。しかもその位置は極めて厳密に決められていて、緻密でハイレベルな手作業が求められ、費用がかかります。しかしエントリーモデルでは、重ねるカーボンシートの数や補強パーツが少なかったり、特殊な技術が不要なため、より生産性を重視した工程が採用されているのです。
 
 またストリングホールの開け方を見ても、最近の競技モデルは糸が真っすぐフレーム内を突き抜ける孔構造が増えており、こうした特殊な孔の開け方をするには、それなりにコストがかかります。一方、ビギナーは打球衝撃もさほど大きくないため、特別な衝撃緩和システムや新素材、それを組み込む工程も必要ありません。従来通りの製造ラインで生産性を上げるのがエントリーモデルの作り方であり、だから製造コストが安くて済むのです。

 ただ「安価なエントリーモデルは粗悪なのか?」というと、決してそうではありません。ビギナーの多くはそんなに強烈なスイングはせず、フレームにかかる負担も少ないため、その強度を大幅に超える構造は必要ない。メーカーは製造コストを抑えることができ、そのぶん買い求めやすい価格で店頭に並べるわけです。

 まずはエントリーモデルを安く提供してテニスの楽しさを知ってもらい、上達したらより高機能なエキスパートモデルを使ってもらう。そのための「布石」のような存在がエントリーモデルなのです。決して品質が低いわけではなく、ビギナーにとって非常に合理的に提供されるラケットだと言えるでしょう。

文●松尾高司(KAI project)
※『スマッシュ』2019年12月号より抜粋・再編集

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