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国内テニス

【全日本選手権】個性的なプレースタイルの伊藤姉妹が初めて公式戦で対戦!「ファイナルセットに行く覚悟はできていた」<SMASH>

内田暁

2021.10.31

「大正製薬リポビタン 全日本テニス選手権96th」は、無観客でブルボンビーンズドーム(兵庫)で開催。写真提供:日本テニス協会

「大正製薬リポビタン 全日本テニス選手権96th」は、無観客でブルボンビーンズドーム(兵庫)で開催。写真提供:日本テニス協会

 ペタペタと、まるですり足のようにコート上を音なく移動し、フォアハンドでドロップショットを沈めては、今度は同じフォームでスライスをストレートに流す。そうかと思えば次の瞬間には、ライジングでボールの跳ね際を鋭く捉え、糸を引くようなバックのフラットショットでウイナーを奪う。

 つかみどころのないテニスは、自ずと見た者の視線を捉える。しかもネットを挟む2人が、写し鏡のように、個性的なそのプレーを披露しあうのだ。伊藤さつきと、伊藤あおい。4歳離れた2人は、父親の手ほどきを受けてテニスを生活の一部としてきた、姉妹である。

 相手のパワーを無効化し七色のショットに変換する伊藤姉妹は、地元の東海地方では、以前より広く知られた存在だという。その原点である父親のテニス哲学を知れば、ユニークなプレースタイルも納得。

「シェイ・スーウェイさんと伊達公子さんがお手本です。2人のテニスを足したようなプレーが理想なんです」

 コート上の控えめな佇まいとは対照的に、手を世話しなく動かしながら、快活な口調で妹のあおいが解説する。「小柄なアジア人が世界で勝つためには、このテニスだって。お父さんのアイディアです」

 その「世界で勝つため」のテニスをひっさげて、2人はまだ小学生の頃から、大人に交じり一般の大会を主戦場とした。柔よく剛を制するセンスに磨きが掛かったのも当然だ。

 そんな実戦経験豊富な2人だが、公式戦での対戦はこれまでなし。子どもの頃は練習試合で対戦したが、姉のさつきが高校に進学した頃からは、練習機会も少なくなった。最後にラケットを交えたのは、3、4年前。その時は、あおい曰く「私がキレて途中でやめた」ため、決着はつかず終い。いずれにしても妹が、姉に勝ったことは一度もなかったという。
 
 現在17歳のあおいにとって、今回の全日本は予選も含めて初の参戦。その厳しい予選を勝ち上がり、「やった」と喜んだのもつかの間。ドローが決まると初戦の相手は、同じく予選を勝ち上がった、姉だった。

 ただ、「ドローに予選上がり同士の対戦があるのを見た時から、嫌な予感はしてたんですよね」と妹は苦笑いを浮かべる。果たして「嫌な予感」通り、姉妹の初の公式戦対戦は、全日本選手権の初戦で訪れた。

「最近はあまり見る機会がなかった」という姉のプレーは、ネットを挟んで見るとやはり、子どもの頃の記憶と変わらず「コントロールがすごく良い」。ただ自分の方が「ネットプレーができる」との自信が、今の妹にはあった。「お姉ちゃんよりは走れる」との自負もある。

 そのネットプレーと走力を生かし、第1セットを妹が6-4で先取。第2セットは先にブレークされるも、「お姉ちゃんは第2セットに強いので、ファイナルセットに行く覚悟はできていた」と試合後に涼しい顔で振り返った。その落ち着きが奏功したか、終盤で追いつき逆転に成功。姉相手の初白星は、初出場の全日本でつかみ取った。
 
「超負けず嫌い」を自認するあおいは、子どもの頃は試合で負けけると、「大人に負けてもしかたない」と自分を納得させたという。だが17歳になった今、もはや年齢を言い訳にはしたくない。

 大きな壁だった姉をまずは破り、独自のテニスで、大人の世界へと切り込んでいく。

文●内田暁

【PHOTO】昨年の全日本選手権ファイナルを厳選写真で振り返り!

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