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国内テニス

【全日本テニス選手権】「いつかは優勝したい大会」でとうとう頂点に立った第1シードの清水悠太「あまり喜んでもいられない」<SMASH>

内田暁

2021.11.07

ブルボンビーンズドームで開催された全日本選手権は、男子シングルス決勝、男女ダブルス決勝を終えて幕を閉じた。写真提供:日本テニス協会

ブルボンビーンズドームで開催された全日本選手権は、男子シングルス決勝、男女ダブルス決勝を終えて幕を閉じた。写真提供:日本テニス協会

「まだダブルスもあるし、今晩、ツアーに出発するので、あまり喜んでもいられない」

 何気なく発したこの一言に、彼の中での全日本選手権の位置づけが、克明に示される。この大会での最高戦績は、2019年の準優勝。第1シードで迎えた昨年は優勝候補と目されたが、準々決勝で敗れた。

「いつかは優勝したい大会」と言い続け、近づきながらもなぜか遠い……それが清水にとっての、全日本タイトルだった。

 ジュニア時代から世界の舞台で活躍した清水は、高校卒業と同時にプロに転向。本人曰く、「最初の1~2年は勢いもあって」、ランキングも右肩上がり。2020年3月には313位に達し、グランドスラム予選も視野に入ってきた。

 だがその直後に、テニス界はコロナ禍により停止する。感染に対し慎重なスタンスだった清水の2020年シーズンは、3月以降、ツアーに出ることなく終わった。年が明け、今季は海外にも積極的に出始めたが、6月に古傷の脇腹を痛めたため、予定を切り上げて帰国。3月間は試合に出られず、ランキングも徐々に下降していく。

「ランキングのルールも少し変わったりし、うまくいかなかったという気持ちの強い、この2年間」。今回の全日本は、そんなもどかしさと、未だ癒えぬ脇腹の痛みを抱えて迎えた大会だった。

 辛勝と快勝が交互した今大会の勝ち上がりも、彼が歩んできたプロキャリアを反映するようである。第1シードとして迎えた初戦(2回戦)は、緊張もあったかフルセットにもつれ込んだ。

 3回戦で当たった羽澤は、ジュニア時代から同じ拠点で練習し、今大会でもダブルスを組む同期の友人。「グランドスラムジュニアで、ベスト8以上行かなかったら大学進学」と決めていた羽澤は慶応大学進学に進み、高校卒業後の進路は分かれた。

 その時から3年半。「いろいろと思うことはあって。負けたら、大学に行った方が良かったと周囲から言われるだろうなとか」

 友人との対戦を控えた清水は、ありえたかもしれない自分の姿を、友人に重ねていたのかもしれない。ただ結果的に彼は、複雑な思いを「気合い」へと昇華する。大学卒業後のプロ転向を決めている羽澤に、3年半の成長を見せつけるかのように攻めたてて、清水が快勝を手にした。

「朝から食べ物が喉を通らず、吐き気も感じた」ほどに緊張した準々決勝の越智戦を突破した後は、昨年敗れた山崎相手に、「相当気合いが入った」会心のプレーを披露。リベンジを果たした末の決勝進出に、「今日は朝ごはんも普通に食べられました」と、穏やかな笑みをこぼした。
 
 決勝戦の相手が、1カ月前に敗れた今井慎太郎だったことは、勝利への動機付けが強い時ほど力を発揮する今回の清水にとって、有利に働いたかもしれない。

 同時に今井対策も、前回の敗戦を踏まえ入念に練って試合に入る。フォアを軸にネットプレーも得手とする今井の攻略法は、「バック狙い」が定石だ。ただ今井も当然ながら、対策は講じている。それらを踏まえた上で、決勝戦の清水は、あえて今井のフォアを狙った。

 清水の戦略には今井も気が付いていたが、それでも「対応できなかった」ことを悔いる。武器のサーブがやや不調だったことも、今井の戦いを苦しい物にした。対する清水は、この日はサーブも良く走る。コースを打ち分け、相手に的を絞らせない。最初のゲームこそブレークを許したが、以降はサービスゲームを手堅くキープ。

 試合開始から、1時間8分——。フォアハンドの強打で悲願のタイトルをつかみ取った時、大会を通じ内に秘めてきた闘志を、清水は叫び声に乗せ解き放った。
 
 ダブルスでも決勝を戦い敗れた清水が、会場を後にしたのは夕方の6時近く。その日の夜にはITF大会に出るために、フランス行きの機上の人となる。

 強行スケジュールを押してでも、立ちたかった頂点。同時に、その足で世界に飛び立つ姿勢こそが、清水の目指す場所を示している。

取材・文●内田暁

◆男子シングルス決勝の結果(11月7日)
清水悠太(三菱電機)[1] 6-3 6-4 今井慎太郎(イカイ)[3] 

◆女子ダブルス決勝の結果(11月7日)
井上雅/大前綾希子 (テニスラウンジ/島津製作所) [4] 6-4 6-4 光崎楓奈/川村茉那 (h2エリートテニスアカデミー/フジキン) [2]

◆男子ダブルス決勝の結果(11月7日)
上杉海斗/松井俊英 (江崎グリコ/ASIA PARTNERSHIP FUND) [2] 6-1 7-6(3) 清水悠太/羽澤慎治 (三菱電機/慶應義塾大学) [3]

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