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海外テニス

全米オープン予選決勝で敗れた3人の日本女子、日比野菜緒、土居美咲、内島萌夏がもがき苦しんだ中でつかんだ希望<SMASH>

内田暁

2022.08.29

完全燃焼できなかった東京五輪が尾を引き、不調に陥った日比野菜緒。今はパリ五輪に意識を向け、新たな歩みをスタートさせた。写真:内田暁

完全燃焼できなかった東京五輪が尾を引き、不調に陥った日比野菜緒。今はパリ五輪に意識を向け、新たな歩みをスタートさせた。写真:内田暁

 全米オープンテニス予選で、3人の日本人女子選手が本戦に王手を掛け、いずれも、最後の一段を上り切るには至らなかった。

 ただ、それぞれが各々の悩みや葛藤を抱えた中で、次につながる戦いだったのは間違いない。キャリアにおける現在地は異なるも、通底する命題に臨んだ、三者三様の物語とは――?

「思い返せば、ズレ始めたきっかけは、オリンピックだったと思います」と日比野菜緒は静かに言った。虚無の夏から1年近く、彼女は「すごく苦しかった」と打ち明ける。

「頑張りたいのに、頑張れない」

 自分でもどうしようもないもどかしさや、周囲への申し訳なさ、そして外界と自身との比較……それらが日々胸を圧し、「やめたいと毎日泣いていた」時期もあったという。

 なぜ、心身の歯車が狂い始めた起点が、東京オリンピックだったのか?

「オリンピックってみんなに応援されるものだと思っていたのに、開催を反対される方も多かった。このパンデミックの最中に、本当にスポーツをしていていいのかな、テニスって本当に私の人生で大切なのかな、と思ってしまったんです」
 

 もとより、“国を代表する”ことに誇りを覚え、オリンピックでの活躍を夢見てきた選手である。「(コーチの竹内)映二さんをオリンピックのベンチに連れていく」ことを最大の目標に掲げていただけに、無人の東京オリンピックの観客席を見た時、無性に悲しくて仕方なかった。

 再び前向きにコートに向かえるようになったのは、ついひと月ほど前のこと。きっかけは、母親の一言だった。

「もう一度頑張ってほしい。あなたには私みたいに、本当はやれたかもしれないのにやらなかっただけ……みたいな後悔をしてほしくない」

 その母の思いは、「なんであそこで頑張らなかったんだろうと、一生悔いて生きていくのが何より怖い」という彼女の人生観に、どんな言葉より深く共鳴した。

「応援してくれる人たちのためにも、もう一度頑張ろう」。そう思えた時、不思議と幸運も巡ってくる。
 
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