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モータースポーツ

ガードレール激突、炎上から生還したグロージャン。ヘイロー、難燃素材のレーシングスーツ…F1の英知が命を救う

甘利隆

2020.12.01

炎上する車の中から自力で脱出したグロージャン。(C)Getty Images

炎上する車の中から自力で脱出したグロージャン。(C)Getty Images

 まるで映画のワン・シーンのようだった。

 F1・15戦バーレーンGPのオープニングラップ。19番グリッドからスタートしたロマン・グロージャン(ハース・フェラーリ)がダニール・クビアト(スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ)に接触し、鉄製のガードレールに激突。マシンは真っ二つに引き避かれ、紅蓮の炎に包まれる。

【PHOTO】世界最高峰のカーレース、F1でしのぎを削るトップドライバーたち

 しかし、燃え盛るマシンの中からグロージャンは自ら脱出し、幸運にも両手の甲に火傷を負ったのみの軽傷で済んだ。ガードレールに衝突した際の速度は221km/h、衝撃は53Gに及び、ヘルメットのバイザーは高熱によって溶けていたという。

 事故後、両手を包帯で巻かれたスイス出身のドライバーは、搬送された病院から動画を公開し、「無事だと言いたかったんだ。まあまあ大丈夫というところかな」とファンを安心させ、「数年前はヘイロー(ドライバーの頭部を守るためのコクピット保護装置)に賛成していなかったけど、今は最高のものだと思う。もしなかったら、今日こうして話すことはできなかった」と衝撃の場面を振り返った。

 翌日にはSNSも更新し、「皆さんからのすべてのメッセージに感謝します。愛すべき人生」とマーシャル、ファンに向かって感謝を伝えた。ちなみにレース中のファン投票によって選出される“ドライバー・オブ・ザ・デイ”にこの日のグロージャンは選出されている。
 
 現場の画像ではマシンはガードレールを突き破り、コックピットが挟まれたようになっている。確かに2014年のジュール・ビアンキ(当時マルシャ・F1・チーム)の死亡事故をきっかけに導入へと向かったヘイローの存在がなかったら、34歳のベテランが命を落とした可能性は相当高かったに違いない。そして1976年のニュルブルクリンクでのニキ・ラウダ(当時フェラーリ)の大クラッシュを契機に開発が進んだ難燃素材のレーシングスーツや堅牢なヘルメットがなかったら、ラウダのように皮膚や肺に大きな損傷を受けていたことだろう。

 レースはルイス・ハミルトン(メルセデスAMG・ペトロナス・F1)の5連勝で幕を閉じたが、7回チャンピオンも今回の事故には衝撃を受け、「なんてクレイジーな日なんだ。僕らが限界を超えようとプッシュしている時、これが危険なスポーツであることを、僕たち、見ている人たちに思い出させる。我々はそれを尊重しなければならない」と投稿した。

 ハースでのチームメイト、ケビン・マグヌッセンは「マリオン(グロージャンの妻)と子どもたちは夫であり父であるロマンをすぐに家に連れて帰るでしょう。これこそが私たち全員が感謝すべき真の奇跡です」と同僚の回復を祈るコメントをSNSに書き込んだ。

 なお、グロージャンは出場の意思を見せていたが、次戦サヒールGPには、2度のF1王者エマーソン・フィッティパルディの孫、ピエトロが起用されることが発表されている。

文●甘利隆
著者プロフィール/東京造形大学デザイン科卒業。都内デザイン事務所、『サイクルサウンズ』編集部、広告代理店等を経てフリーランス。Twitter:ama_super
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