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“菜食”を選択するアスリートたち。きっかけはドーピング、差別や偏見をなくしたいという思い【テニス・日比野菜緒&パラ水泳・一ノ瀬メイ対談|前編】

内田暁

2021.02.20

菜食主義、ビーガンという食の志向とアスリートとしての立ち位置まで、トップアスリートである日比野(左)と一ノ瀬(右)が存分に語った。写真:内田暁

菜食主義、ビーガンという食の志向とアスリートとしての立ち位置まで、トップアスリートである日比野(左)と一ノ瀬(右)が存分に語った。写真:内田暁

 WTAツアーで単複各2つのタイトルを誇る日比野菜緒と、2016年リオ・パラリンピックで8種目に出場した、パラスイミング第一人者の一ノ瀬メイ。年齢では3歳の隔たりがあり、これまで足跡が重なることがなかった2人をつなげたのは、“菜食主義”もしくは“ビーガン”と呼ばれる“食のしこう”だった。

 ビーガンの定義は、肉や魚、卵・乳製品も含め、可能な限り動物搾取をしない生き方。選ぶ理由は人それぞれだが、2人のアスリートの場合は、身体に良いものを食べたいという「志向」や、おいしい物を求める「嗜好」、そして食の根本への「思考」でもあった。
 
 いちアスリートとして、あるいは発言力を持つ公人として、そして1人の人間として――。交錯する2人の“食のしこう”を、まずは出発点から聞いた。

  ◆  ◆  ◆

日比野 「私は去年の3月くらいに、メキシコのアカプルコ大会でのドーピング違反の通達をWADA(世界アンチドーピング機構)から受けたんです。薬も一切飲まないのにひっかかるはずがないと思っていたところ、メキシコで食べたお肉に成長ホルモンが入っていたことが証明されました。

 なので罰則はなかったんですが、動物のお肉に、食べた人間から検出されるほどのお薬が入っているってどういうことなんだろうと調べた時、工業畜産というのを知って、お肉を食べるのをやめようと思ったんです」

一ノ瀬 「私は去年の5月ごろから、動物性食品を避ける食生活をとりはじめました。
きっかけは、環境問題に関するドキュメンタリー映画を見たことで、畜産が気候変動に与える影響を知って、お肉を食べるのをやめたんです。なので最初は『プラントベース』という名乗り方をしていて、動物性食品を厳格に避けるとは言わず、なるべく避けるようにしようかなーくらいでした。

 今は、お肉、魚、卵や乳製品も含め、動物性食品は一切取らないです。ただ、カテゴリー分けする必要もないのかなという気がします。私は自分の食べたいものを食べている。ビーガンだからこうと定義されてしまうと、それは違うかなと思います」
 
日比野 「わたしはメイちゃんと逆で、最初は厳格にやろうと思っていたんです。でも今はメイちゃんと同じで、カテゴリーにこだわらず、自分に心地よい食事をしたらベジタリアンに落ち着いた感じだし、お魚はときどきなら頂きます。乳製品は可能な限り避けたいんですが、遠征先に来ると難しいですね。残すとフードロスやゴミなど他の問題も生じてしまうので、出されたものは可能な限り食べるようにしています」

一ノ瀬 「私の場合は、環境問題をきっかけに色々と勉強するうちに、身体への影響や、最終的には『アニマルライツ』や『種差別』というものを知って……。私はもともと水泳をする理由が、障害者への差別をなくしたいという目的からなんです。自分の発言を聞いてもらうには、成績を残さないとメディアにも取り上げてもらえない。なので、水泳で結果を残して発言力をつけ、障害者への差別や偏見をなくしたいと思っていたのに、そんな私が、食事で動物を差別していたと知った時に、すごくショックで。そこからは食べ物以外でも、動物搾取や種差別をしないで生きていくライフスタイルにシフトしたんです」
 

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