パリ五輪の女子ボクシングで巻き起こった“性別騒動”。その余波はいまだ収束の気配をみせていない。

　今大会の開幕を目前に控え、女子66キロ級のイマネ・ケリフ（アルジェリア）と、57キロ級のリン・ユーチン（台湾）は共にバッシングに晒された。昨年の世界選手権でDNA検査を用いた性別適格性検査が行なわれ、「XY染色体を持っている」と結論づけられて失格。五輪出場の是非を巡って批判的な意見が噴出し、初戦でケリフが戦ったイタリア人選手がパンチ力を脅威に感じて途中棄権すると、さらにその傾向が高まったのだ。
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　IOC（国際オリンピック委員会）は２選手の出場資格に関して、パスポート上が女性である点を強調しながら、疑いの余地はないと断言した。「IBA（国際ボクシング協会）による突然の恣意的な決定であり、正当な手続きなしで失格となったものだ」と主張し、「２人は犠牲者である。IOCは２人の選手が現在受けている誹謗中傷に心を痛めている」との声明を発表。トーマス・バッハ会長も同調して両選手へのサポートを約束した。

　両選手は着実に勝ち進み、リング上でのパフォーマンスや試合ごとのコメントなども随時クローズアップされ、そのたびに賛否両論が世界中で渦巻いた。最終的にケリフとリンはどちらも金メダルを獲得。ふたたび議論は活発化の度合いが増した。

　大会後、英紙『Telegraph』が特集記事を組み、今回の問題に関してIOCなどを厳しく糾弾した。その記事をＸ上でリポストし、「素晴らしい！」と絶賛したのが英国テレビ界で不動の人気を誇る女性キャスター、ローラ・ウッズ氏だ。サッカーを筆頭に世界的なスポーツイベントで幾度となくメイン司会を務めてきた敏腕だが、彼女のSNSにはおびただしい数の中傷コメントが届いていると告白した。

　現在37歳のウッズ氏は「あの記事に返信して以来、私自身と生まれてくる子どもに対する殺害予告を何度も受けました」と明かし、「私自身の性別に関する質問（私は妊娠しているので、これではっきりしたと思う）、雇用主に私を解雇するように迫る電話や、私の家への脅迫もありました。人種差別主義者や性差別主義者と罵られ、さまざまな汚い言葉で侮辱も受けています」と訴えた。

　それでもウッズ氏は信念を曲げない。「なによりも公平であるべき（五輪という）環境にあって、他の人間の安全に影響を及ぼしかねない検査結果に矛盾があったのです。疑問が生じるのは当然でしょう」と断じ、「答えはまだはっきりしていません。だからこそ、この話題はまだ終わっていないのです」と続けた。
  　金メダルを獲得したケリフは、大会中にネット上で浴びせられた誹謗中傷に対して訴訟を起こし、現地８月14日にはパリ検察庁が捜査を開始したことを公表した。ケリフが提訴した名簿には実業家のイーロン・マスク氏や、ハリー・ポッターシリーズで有名な作家のＪ・Ｋ・ローリング氏らの名前が記されているという。

　女子スポーツの世界にあらためて大きな一石を投じた“性別騒動”。尽きない議論ははたして、どのような方向へと向かうのだろうか。

構成●THE DIGEST編集部

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