スターダムの“上谷現象”は札幌から始まった。

　昨年7月、ビッグマッチとして開催された札幌大会でのこと。上谷沙弥は舞華を裏切ってヒールユニット大江戸隊と手を組む。新たなヒール集団H.A.T.E.の誕生だった。

【スターダムPHOTO】上谷沙弥、舞華、スターライト・キッド…リングを華やかに彩る美女戦士の厳選フォトを一挙公開！
　悲劇性を帯びたベビーフェイスというイメージから一転、黒いコスチュームに身を包んだ上谷は反則も駆使しつつ、自由奔放な闘いで観客を魅了。年末の両国国技館大会で中野たむを下し“赤いベルト”ワールド王座を獲得している。
 
　さらに上谷はたむとの敗者引退マッチにも勝利。そのインパクトに加えて、たびたび地上波の番組に出演していることもあり、上谷の知名度は上がり続けている。後楽園ホール大会の観客動員も絶好調と言っていい。

　そんな“時の人”上谷に挑戦表明したのが“妖精”なつぽいだった。タイトルマッチは７月21日の札幌大会に決定。上谷にとって札幌は運命を変えた場所だ。一方、なつぽいは昨年の札幌ビッグマッチで“白いベルト”ワンダー王座を獲得している。若手時代から憧れ続けてきたベルトだ。

　年末の両国でタイトルは失ったが、再び札幌でのチャンスを得たことになる。とはいえ、その内面は１年間で大きく変わった。

　タッグパートナーでもあるたむが引退したことで、なつぽいのメンタルも「ボロボロになりました」。中野たむのいないスターダムはどうなるのか。自分にたむの代わりなどできるはずがない、団体を引っ張ったり支えたりするなんて、以前は考えたことがなかった。自由に、自分の感性で動くから“妖精”なのだ。

　だがこれからは変わらなくてはいけない。なつぽいの中に責任感が芽生えていた。５月31日には、同期の安納サオリとともにデビュー10周年大会を開催。その準備をしていく中でメンタルも回復していった。大会では、やはりセンダイガールズの橋本千紘&岩田美香と対戦。なつぽいが岩田から３カウントを奪った。

　ここでつけた自信とともに、赤いベルトに挑戦するわけだ。単にベルトを取るかどうかではなく、たむ引退からつながったドラマ。なつぽいは、今のスターダムには変化が必要だと考えている。

「たむちゃんが引退して、岩谷（麻優）さんも退団して。そこでなんとなく穴埋めじゃないけど“スターダムは大丈夫だよね”じゃいけない。こういう時だからこそ新しいスターダムを見せたいんです」

　タイトルマッチ調印式、なつぽいは上谷を「中途半端なヒールごっこ」と批判した。上谷はヒールでありながらも“悪さ”、“怖さ”に偏らず「女子プロレスの知名度を上げたい」と本音で語るところが支持されている。

　ただなつぽいはなつぽいで、スターダムがもっと世間に伝わる形を考えているのだ。

「もっと物語に入りやすいスターダムにしたいです。ヒールの魅力より、ヒーローを応援したくなるスターダムを作りたい」

　上谷の人気は分厚いものがある。なつぽいの主張がそのまま正しいと思うファンばかりではないだろう。だが、なつぽいがスターダムのリングに“対立軸”をもたらしたことは間違いない。人気絶頂と言える上谷の向こうを張って、自分の理想を掲げたのだ。

“悪くてチャーミング”が上谷なら、なつぽいはベビーフェイスの中のベビーフェイス。勝つか負けるかだけでなく、存在感そのものがポイントになる重要なタイトルマッチだ。

取材・文●橋本宗洋
【記事】「誰かの代わりなんていらない」「私がいれば大丈夫」上谷沙弥＆スターライト・キッド、激動のスターダムを支える“新たな顔”の心意気

【動画】号泣する上谷沙弥、中野たむへの想いを激白！

【スターダムPHOTO】強くて可愛いギャップに胸キュン！破壊力抜群な“美しき戦士”たち