そして里村は、最後の最後まで橋本と互角以上に渡り合っていた。レスリングの強豪だった橋本をビル・ロビンソンから伝授された投げで綺麗にテイクダウン。グラウンドでも一歩も引かない。そして得意の蹴りはありとあらゆる角度からヒットした。

　いわゆる“序盤のレスリング”でも、そこに蹴りを混ぜることで“崩し”の効果をもたらす。形をなぞるような通り一遍の攻撃をしないから、見ているほうも気が抜けない。プロレスというカテゴリーの中での、最上級の闘いがそこにあった。男女関係なく、最も“強さ”に重きを置いた攻防。理想の“ストロングスタイル”とさえ言ってよかった。
　試合後の里村は、潔く負けを認めた。
 
「今日は一番いい状態の里村明衣子がリングに上がって、3（カウント）取られました。完璧に負けましたね」

　それは自分が心のどこかで望んでいたことでもあったようだ。

「勝つ気でいましたけど、私が勝っていたら仙女の未来がなかった。スッキリしてます。あとは後輩たちに託します」

　もちろん、引退ロード自体へのモチベーションはまったく落ちていないという。4月3日の新宿FACE大会では鈴木みのるとシングルマッチを行う里村。16日の小橋建太プロデュース興行では、男子の試合もある中でメインイベントに登場することになった（Sareeeと組み橋本千紘&優宇と対戦）。

　そして4月29日。カードはまだ発表されていないが、今の好調ぶりからすると“史上最高の引退試合”への期待感も高まる。引退目前にして、今の里村明衣子はマット界の最注目選手だ。

取材・文●橋本宗洋

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