チャンピオンズリーグのリバプール戦は、キリアン・エムバペにとって真価を問われる一戦だった。
カルロ・アンチェロッティ監督がヴィニシウス・ジュニオールとのポジションを入れ替える形で、得意とする左サイドで起用した3日前のレガネス戦(3-0でマドリーが勝利)を受けて、その配置を続けるかどうかが注目されていた。しかし、そのレガネス戦の翌日にヴィニシウスの負傷が判明。期せずして左サイドでプレーすることが確定し、さらにそのチームメイトの分も攻撃を牽引する働きが期待された。
結果は、PK失敗も含めて低調なパフォーマンスに終始。「左サイドは(中央よりも)スペースがあるので、幅を取ることができ、スプリント力を発揮できる。つまりエムバペが本領を発揮する舞台が整っていたわけだが、その中で輝きを放てなかったことは憂慮すべき事態だ。ヴィニシウスがいれば、試合は異なる展開になっていた可能性は高い。彼の重要性は、欠場した試合で、より鮮明になる」と『AS』紙の副編集長、ハビエル・シジェス氏はヴィニシウスとの違いを指摘しながら分析する。
この両者の比較論争に火をつけたのが、他でもない先月のソシオ総会におけるフロレンティーノ・ペレス会長の「ヴィニシウスは世界最高の選手」という言葉だった。この発言を受け、フリージャーナリストのサンティアゴ・セグロラ氏は「エムバペは世界最高の選手という看板を背負ってやってきたが、マドリーでその称号を維持できるかどうかは誰にも分からない。ヴィニシウスはペレス会長の発言に勇気づけられただろう。逆にエムバペはプライドと魂を傷つけられたはずだ」と見解を述べている。
大手ラジオ局『カデナ・セール』でスポーツ番組のMCを務めるヘスス・ガジェゴ氏も、「パリ・サンジェルマンでは及第点のプレーを見せれば、チームは勝利を収め、自らはゴールを決めて世界中から称賛された。しかしマドリーは違う。3倍のことをしなければ評価されないし、なおかつ毎試合厳しいチェックを受ける」と、マドリーというクラブの特殊性を強調する。
そのパリに「長く留まりすぎた」点を指摘するのが戦術アナリストで、YouTuberとしても人気のアルベル・ブラジャ氏で、「エムバペのキャリアを振り返ると、そこそこ頑張れば絶対的なエースとして崇められるクラブで、チューインガムを引っ張るだけ引っ張ったことがマイナスに作用している。一方、ヴィニシウスは2021年以来、確実に成長を重ねていた。その2人が同じチームメイト同士になったわけだ。その意味ではエムバペは映画『トゥルーマン・ショー』の主人公のようだ。パリで演じていた物語は、マドリーはもちろん、他のビッグクラブにもトレースできないという意味で、本物ではなかった」と、誤ったキャリア選択が結果的に成長スピードを鈍化させ、ヴィニシウスとの差となって表われていると主張する。
結果が出なければ、いろいろ言われるのはスターの宿命だ。0-2で敗れたリバプール戦の4日後のヘタフェ戦では1ゴールを挙げて2-0の勝利に貢献したが、「まだフィニッシュワークの精度が甘い」と決定機で決めきれなかった他の場面に言及するメディアも少なくなかった。「活躍して当然」という空気感の中でマドリーでの生活がスタートし、最初の数か月適応に苦しんだのは、同胞のレジェンド、ジネディーヌ・ジダンと重なる部分もある。その大先輩は”洗礼”を乗り越えた後、大きな羽を広げて最も高いところへ飛び立った。さて、エムバペは……。
文●下村正幸
【動画】エムバペのゴラッソで勝利! 15節ヘタフェ戦ハイライト
カルロ・アンチェロッティ監督がヴィニシウス・ジュニオールとのポジションを入れ替える形で、得意とする左サイドで起用した3日前のレガネス戦(3-0でマドリーが勝利)を受けて、その配置を続けるかどうかが注目されていた。しかし、そのレガネス戦の翌日にヴィニシウスの負傷が判明。期せずして左サイドでプレーすることが確定し、さらにそのチームメイトの分も攻撃を牽引する働きが期待された。
結果は、PK失敗も含めて低調なパフォーマンスに終始。「左サイドは(中央よりも)スペースがあるので、幅を取ることができ、スプリント力を発揮できる。つまりエムバペが本領を発揮する舞台が整っていたわけだが、その中で輝きを放てなかったことは憂慮すべき事態だ。ヴィニシウスがいれば、試合は異なる展開になっていた可能性は高い。彼の重要性は、欠場した試合で、より鮮明になる」と『AS』紙の副編集長、ハビエル・シジェス氏はヴィニシウスとの違いを指摘しながら分析する。
この両者の比較論争に火をつけたのが、他でもない先月のソシオ総会におけるフロレンティーノ・ペレス会長の「ヴィニシウスは世界最高の選手」という言葉だった。この発言を受け、フリージャーナリストのサンティアゴ・セグロラ氏は「エムバペは世界最高の選手という看板を背負ってやってきたが、マドリーでその称号を維持できるかどうかは誰にも分からない。ヴィニシウスはペレス会長の発言に勇気づけられただろう。逆にエムバペはプライドと魂を傷つけられたはずだ」と見解を述べている。
大手ラジオ局『カデナ・セール』でスポーツ番組のMCを務めるヘスス・ガジェゴ氏も、「パリ・サンジェルマンでは及第点のプレーを見せれば、チームは勝利を収め、自らはゴールを決めて世界中から称賛された。しかしマドリーは違う。3倍のことをしなければ評価されないし、なおかつ毎試合厳しいチェックを受ける」と、マドリーというクラブの特殊性を強調する。
そのパリに「長く留まりすぎた」点を指摘するのが戦術アナリストで、YouTuberとしても人気のアルベル・ブラジャ氏で、「エムバペのキャリアを振り返ると、そこそこ頑張れば絶対的なエースとして崇められるクラブで、チューインガムを引っ張るだけ引っ張ったことがマイナスに作用している。一方、ヴィニシウスは2021年以来、確実に成長を重ねていた。その2人が同じチームメイト同士になったわけだ。その意味ではエムバペは映画『トゥルーマン・ショー』の主人公のようだ。パリで演じていた物語は、マドリーはもちろん、他のビッグクラブにもトレースできないという意味で、本物ではなかった」と、誤ったキャリア選択が結果的に成長スピードを鈍化させ、ヴィニシウスとの差となって表われていると主張する。
結果が出なければ、いろいろ言われるのはスターの宿命だ。0-2で敗れたリバプール戦の4日後のヘタフェ戦では1ゴールを挙げて2-0の勝利に貢献したが、「まだフィニッシュワークの精度が甘い」と決定機で決めきれなかった他の場面に言及するメディアも少なくなかった。「活躍して当然」という空気感の中でマドリーでの生活がスタートし、最初の数か月適応に苦しんだのは、同胞のレジェンド、ジネディーヌ・ジダンと重なる部分もある。その大先輩は”洗礼”を乗り越えた後、大きな羽を広げて最も高いところへ飛び立った。さて、エムバペは……。
文●下村正幸
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