2世選手がとかく色眼鏡で見られるのは洋の東西を問わない。スペインも例に漏れず、そこに「現監督の」という枕詞がつけばなおさらその傾向は強まる。出番を得れば「親のコネ」と揶揄され、そこそこの活躍では周りは納得してくれない。父親である監督はそんなことは承知の上で、特別扱いをしていると勘ぐられないように、慎重に実力やタイミングを見極めながら起用していく必要がある。
今その周囲の懐疑的な見方を覆して、チームの巻き返しの立役者の1人と評価されている選手がいる。アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督の三男ジュリアーノだ。
「その扱いが正当かどうかを証明する機会もないまま、シメオネ叩きの道具とされていると感じながらプレーするのは容易なことではない」と現役時代にシメオネのチームメイトだったアトレティコOBのキコ氏が認めるように、ジュリアーノもまた二世選手の宿命を背負ってのスタートだった。しかし本人は、「苗字は重圧にはならない。僕にとっては誇りだ」という言葉通りに、父親譲りのDNAを武器にシメオネ・サッカーのトレードマークであるハードワークを攻守にわたって体現しつづけている。
それは昨シーズン、レンタルでプレーしたアラベスの当時の監督、ルイス・ガルシアの「90分を通して止まることなく走り続けることができる。どんな状況でも活路を見出そうと躍起になってプレーする必死さが素晴らしい」とのコメントや、「練習でも試合でも死にものぐるいでプレーする」(アクセル・ヴィツェル)というチームメイトの言葉からもわかる。そして、その真摯な姿勢が周囲の雑音を封じ込める結果にもなった。
セカンドトップが本職ながら、マルコス・ジョレンテの負傷とナウエル・モリーナの不調に乗じて右サイドで出場機会を増やしているのも、ハードワークの賜物だ。守備と攻撃の上下動を繰り返しながら、ゴリゴリと突破し、フィニッシュにも積極的に絡む。
そんなジュリアーノのブレイクのきっかけとなったプレーが、タッチラインを割りそうなボールをスライディングで拾い、そのまま鋭いグラウンダーのクロスを入れ、ニアに詰めたアントワーヌ・グリーズマンの決勝点をお膳立てしたレガネス戦でのアシストだ。前述のキコ氏も「チョリスモ(シメオネ主義)を注入したアクション!」と絶賛した。
戦術アナリストで、現在はサッカーを専門としたビッグデータの分析を行う『Driblab』に所属するアレハンドロ・アロージョ氏はジュリアーノのパフォーマンスを、「可能な限り直接的にゴールを目指し、わずかな守備のアクションの中にも喜びとモチベーションを見出し、サボることが絶対悪と見なされるチョリスモの格言を実践している」と評価する。
一方、息子が活躍し続ける中でも、シメオネ監督はフラットに1人の選手として接する姿勢を崩していないが、ラス・パルマス戦でジュリアーノがアトレティコの選手として初ゴールを決めた時の様子を、スペイン紙『エル・パイス』のアトレティコ番記者、ラディスラオ・ハビエル・モニーノ氏は、次のように描写している。「タッチライン際で息子がゴールを喜ぶ姿を見ていたシメオネは、周りの目を気にして感情を押し殺していたようだった。アトレティコで指揮を執って以来、最も喜ばなかったゴールの1つだったかもしれない。しかし内心では、嬉しさは2倍だったはずだ」
実の息子が、シメオネ監督が自ら掲げるサッカーを率先して実践し、その活躍が起爆剤となってチームが巻き返しを見せる――。これほど監督&親冥利に尽きることはないだろう。
文●下村正幸
【動画】OBが「チョリスモを注入したアクション!」と叫んだジュリアーノのアシスト
今その周囲の懐疑的な見方を覆して、チームの巻き返しの立役者の1人と評価されている選手がいる。アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督の三男ジュリアーノだ。
「その扱いが正当かどうかを証明する機会もないまま、シメオネ叩きの道具とされていると感じながらプレーするのは容易なことではない」と現役時代にシメオネのチームメイトだったアトレティコOBのキコ氏が認めるように、ジュリアーノもまた二世選手の宿命を背負ってのスタートだった。しかし本人は、「苗字は重圧にはならない。僕にとっては誇りだ」という言葉通りに、父親譲りのDNAを武器にシメオネ・サッカーのトレードマークであるハードワークを攻守にわたって体現しつづけている。
それは昨シーズン、レンタルでプレーしたアラベスの当時の監督、ルイス・ガルシアの「90分を通して止まることなく走り続けることができる。どんな状況でも活路を見出そうと躍起になってプレーする必死さが素晴らしい」とのコメントや、「練習でも試合でも死にものぐるいでプレーする」(アクセル・ヴィツェル)というチームメイトの言葉からもわかる。そして、その真摯な姿勢が周囲の雑音を封じ込める結果にもなった。
セカンドトップが本職ながら、マルコス・ジョレンテの負傷とナウエル・モリーナの不調に乗じて右サイドで出場機会を増やしているのも、ハードワークの賜物だ。守備と攻撃の上下動を繰り返しながら、ゴリゴリと突破し、フィニッシュにも積極的に絡む。
そんなジュリアーノのブレイクのきっかけとなったプレーが、タッチラインを割りそうなボールをスライディングで拾い、そのまま鋭いグラウンダーのクロスを入れ、ニアに詰めたアントワーヌ・グリーズマンの決勝点をお膳立てしたレガネス戦でのアシストだ。前述のキコ氏も「チョリスモ(シメオネ主義)を注入したアクション!」と絶賛した。
戦術アナリストで、現在はサッカーを専門としたビッグデータの分析を行う『Driblab』に所属するアレハンドロ・アロージョ氏はジュリアーノのパフォーマンスを、「可能な限り直接的にゴールを目指し、わずかな守備のアクションの中にも喜びとモチベーションを見出し、サボることが絶対悪と見なされるチョリスモの格言を実践している」と評価する。
一方、息子が活躍し続ける中でも、シメオネ監督はフラットに1人の選手として接する姿勢を崩していないが、ラス・パルマス戦でジュリアーノがアトレティコの選手として初ゴールを決めた時の様子を、スペイン紙『エル・パイス』のアトレティコ番記者、ラディスラオ・ハビエル・モニーノ氏は、次のように描写している。「タッチライン際で息子がゴールを喜ぶ姿を見ていたシメオネは、周りの目を気にして感情を押し殺していたようだった。アトレティコで指揮を執って以来、最も喜ばなかったゴールの1つだったかもしれない。しかし内心では、嬉しさは2倍だったはずだ」
実の息子が、シメオネ監督が自ら掲げるサッカーを率先して実践し、その活躍が起爆剤となってチームが巻き返しを見せる――。これほど監督&親冥利に尽きることはないだろう。
文●下村正幸
【動画】OBが「チョリスモを注入したアクション!」と叫んだジュリアーノのアシスト
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