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MLB

渡米から10年。ファン待望の「マリナーズのイチロー」がようやく見られた開幕戦の名シーンを振り返る

出野哲也

2020.02.15

マリナーズのユニフォームを着て、初めて日本で公式戦を戦ったイチロー。いきなり4安打を放つ千両役者ぶりで、東京ドームに詰めかけたファンを熱狂させた。(C)Getty Images

マリナーズのユニフォームを着て、初めて日本で公式戦を戦ったイチロー。いきなり4安打を放つ千両役者ぶりで、東京ドームに詰めかけたファンを熱狂させた。(C)Getty Images

 2000年のカブス対メッツ戦を皮切りに、MLBは数度にわたって日本での公式戦を行ってきた。04年のヤンキース対デビルレイズ戦では前年ヤンキースに入団した松井秀喜が、08年のレッドソックス対アスレティックス戦は、同じくレッドソックスに入って2年目の松坂大輔が目玉として扱われた。

 しかしながら、日本人メジャーリーガーで最大のスターであるイチローが公式戦を日本でプレーする機会は、渡米以降10年以上もないままだった。本来であれば、03年にマリナーズがアスレティックスと戦う予定になっていたのだが、イラク戦争の影響によって中止に追い込まれていた。ただ、イチローの雄姿を日本のファンがまったく見られなかったわけではない。02年秋の日米野球では、全米オールスターの一員として里帰りを果たし、8試合を戦った。とはいえ真剣勝負の場ではなかったし、06年と09年にはWBCのアジアラウンドが東京ドームで行われたが、そこにいたのは「メジャーリーガー・ICHIRO」ではなく、「日本代表のイチロー」だった。

 日本中のファンが待ちに待った日が、ようやく訪れたのは12年。3月28、29日の2試合で、対戦相手は幻に終わった9年前と同じアスレティックスだった。28日、東京ドームに押し寄せた4万4227人の大観衆の目の前で、3番に入ったイチローは「どういう心の動きがあるか、想像もつかなかった。アメリカで開幕するときと違う種類の緊張感」を持って迎えていたとは思えないパフォーマンスを見せた。
 
 第1打席でブランドン・マッカーシーからショートへの内野安打を放つと、次の打席は三遊間への打球で再び内野安打、さらに3打席目もセンター前へ。延長戦となって回ってきた11回の第5打席は、センター前へダメ押しとなるタイムリーを放ち、マリナーズが3対1で勝利を収めた。

 4本ともいわゆるクリーンヒットではなく、俊足と絶妙なバットコントロールで稼いだ、イチローらしい安打。本人は4安打の固め打ちに「格好は付いたかなという感じですかね」とクールに振り返ったが、勝利の瞬間には右翼席のファンに向かって指を指す珍しい光景も見られた。「一生に2試合しかないですから、その瞬間を刻みたいという思い。足を運んでくれた人も同じ思いだと思うので共有したかった」。翌日は4打数ノーヒットに終わったものの、守備ではカート・スズキが放った大飛球を好捕した。

 その後、日本での公式戦はしばらく開催されず、イチローにとってもこの2試合が最後の機会となったかと思われていた。だが18年になって、マリナーズが19年3月に開幕戦を日本で行うことを発表(相手はまたもアスレティックス)。結果的にこれが、イチローの現役最後の舞台となった。19年の開幕シリーズではついにヒットを1本も打てずに終わったことを考えると、この12年の開幕戦が持つ歴史的意義が改めて浮き彫りになる。

文●出野哲也

※『スラッガー』イチロー引退特集号より転載
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