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プロ野球

【野球人が紡ぐ言葉と思い】「勝ち負けだけに一喜一憂してはいけない」――奥川恭伸の"先を見通す力"

氏原英明

2020.04.15

奥川は昨年夏の甲子園3回戦で、延長14回を1人で投げ切り、73年の江川卓に並ぶ1試合23奪三振をマークした。写真:朝日新聞社

奥川は昨年夏の甲子園3回戦で、延長14回を1人で投げ切り、73年の江川卓に並ぶ1試合23奪三振をマークした。写真:朝日新聞社

「勝ち負けは絶対につくと思うので、そこに一喜一憂していてはいけない」(星稜高・奥川恭伸)

 2019年夏の甲子園大会直前のインタビューで、奥川恭伸(現ヤクルト)はこう語った。それは開会前から評判だった「大会ナンバーワン投手」のイメージからすると、意外な言葉だった。

 高校時代の奥川は常に注目の的だった。最速154キロのストレートに加えて、スライダーをはじめとする変化球も抜群。同世代では屈指の完成度を誇り、大船渡高の160キロ右腕・佐々木朗希(現ロッテ)とともに評価を二分してきた。

 だが、甲子園への出場経験がない佐々木に対し、奥川は高校2年春から大車輪の活躍でチームを4季連続の甲子園に導いた"星稜の絶対的エース"。それだけに、勝敗に対するこだわりはさぞ強いのかと思いきや、そうではなかった。彼が常に心掛けていたのは、勝利よりもむしろ、そこに至る過程を重視する姿勢だった。

「試合に勝つにしても、負けるにしても、反省点もあれば収穫もある。そういったところをしっかり理解できるようにしないといけないと思っています。ただ勝った負けた、抑えた抑えられなかったじゃなくて、しっかり中身を見て次に生かせるように日々やっていかないといけない」

 目先の勝ち負けだけでなく、その試合で得たものを次の試合に生かす。"先を見通す力"は、彼の持つ強さの一つと言えるだろう。
 
 3年夏の甲子園は、奥川がそれまでの2年間で得てきたものの集大成だった。準決勝までの4試合で失点わずか1。その1点も味方の守備の乱れによるもので、自責点はゼロだった。3回戦では智弁和歌山を相手に14イニングを1人で投げ抜いて勝利を収めるなど、この大会で最も輝いた投手となった。

 だが、連日の力投の代償か、決勝の履正社高戦では5失点とついに力尽きた。完投して味方の援護を待ったが、奇跡は起きなかった。しかし敗れた後、最後に彼はまたも印象的な言葉を残してくれた。

「野球の神様が自分に与えてくれた課題なのかなと。向こうの方が日本一になるべきチームなのだと思います」

 この時も、奥川は“その先”を見ていた。彼があの試合で何を得たのか、そしてそれを今後のプロ生活でどう生かすのかが、今から楽しみだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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