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MLB

「スーパースター不在」の現代MLBを体現するレイズ野球は次代のトレンドとなるのか?

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2020.10.20

球界屈指の“貧乏軍団”でありながら、レイズはさまざまな創意工夫を駆使してワールドシリーズまで勝ち上がってきた。(C)Getty Images

球界屈指の“貧乏軍団”でありながら、レイズはさまざまな創意工夫を駆使してワールドシリーズまで勝ち上がってきた。(C)Getty Images

 レイズの試合を見ていると、野球についての固定概念が次々に覆される。

 盗塁を試みることすらほとんどない打者が時には1番を務め、エースであっても相手打者が3巡目に入ればあっさりマウンドを降りる。普段は主にクローザーを任されている投手が3回に登場し、外野に4人、時には5人も配置する極端なシフトを敷く。日本でもおなじみになったオープナーやブルペン・ゲームを生み出したのもこのチームだ。

 アストロズと戦ったリーグ優勝決定シリーズで、レイズは第1戦から第7戦まで、すべて異なるラインナップで臨んだ。計4人が3番を務め、4番は3人。相手投手とのマッチアップなどに応じて、打順も守備位置も目まぐるしく変えていく。

 なぜこれほど極端な戦略に走るのか。答えは簡単、MLBでも屈指の貧乏チームだからだ。

 お金がないから、誰もが知っているようなスター選手を獲得することはできない。だから、年俸は安くても一芸に秀でた選手をかき集め、それぞれの長所を最大限に生かしながら勝つ方法を模索する。最新のデータ分析から得られた知見も最大限に反映し、たとえそれが「球界の常識」に反するアイデアであっても、勝利に近づく戦略と判断したならば迷うことなく実践する。その結果が、年俸総額で3倍以上も上回るヤンキースを倒した上での12年ぶりのリーグ優勝だった。
 
 言わばレイズは、『マネー・ボール』で描かれたアスレティックスの究極の進化版だ。実際、成果という点でもすでに本家を上回っている。球界に革命を起こしたビリー・ビーンがこれまで一度もワールドシリーズに進めていない中、レイズは2008年に続いて2度目の大舞台に駒を進めた。しかも、ヤンキースとレッドソックスという、MLB屈指の強豪チームと同じ地区に所属していながらだ。

 オープナーがまさにそうだったように、レイズの試合には「次のトレンド」のヒントが隠されている。いい意味でも悪い意味でも、彼らのゲームに「球界の未来」が凝縮されていると言っても、決して過言ではない。

 あえて「悪い意味でも」と付け加えたのは、レイズの戦略が危険な側面も孕んでいるからだ。サイ・ヤング賞を獲得したほどの投手が90球も投げないうちにマウンドを降り、(個性的ではあっても)無名のリリーバーが入れ替わり立ち代わりマウンドに上がる試合を、果たして一般のファンは喜ぶだろうか? 猫の目のようにラインナップが変わることで、「レイズと言えばこの人」という看板選手もなかなか出てこない。
 

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